ぞわぞわと何か得体の知れない物が背中を這い上がって来るような気がして、目が覚めた。最悪の目覚め方だ。
前髪が汗でべっとりと額に張り付いて離れない。簡素な作りのワンピースも似たようなものだった。全身がこれでもかというほど汗で濡れている。
「きもちわるい…」
ずるりと、ベタつく体を引きずるようにベッドを下りてひとまず部屋を出た。いっそ雨でも降っていればよかったのに。
水。水。水。――そればかり考えていたら、足は正直に浴室へ向いた。服を脱ぐのも億劫で後先考えず頭から冷水を浴びる。肌を刺すほどの勢いで降り注ぐ水は、少しでも涼をと座り込んだ私の体から不快感も、熱も、汗も、全部纏めて奪ってくれた。
「正気?」
「…この上なく正気よ」
後をついてきていたらしい黒猫は、脱衣所から信じられない物でも見るように私を見上げる。言葉よりも遥かに饒舌な目を見たくなくて瞼を下ろしたら、水音がまるでベールのように私を包んだ。
「とてもそうは見えないけどね」
「うるさい」
頭の天辺から爪先まで、ほど良く冷えた頃合いを見計らったようにリドルがシャワーを止める。薄らと目を開けて見上げたら、咎めるというより呆れの強い視線を返された。風邪でも引いたらどうする気なんだと、やはり彼の目は言葉より多くの事を私に語る。
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