長いローブが翻り、広がる闇を蹴散らすような閃光が放たれる。光は矢のように素早く空を駆けた。
新月の夜。光源のなかった世界が白く燃え上がる。
「風よ、その吐息をもってたゆたう水を回せ。炎は熾り、大地を清めよ。源無き光の下、世界は閉じる。闇夜が戻り全ての歪みが正されるまで、けして開くことはない」
朗々と紡がれる言葉は強い魔力を帯びていた。放たれる音と音の連なりが大気を震わせ、世界に満ちた古[イニシエ]からの理[コトワリ]を少しずつ変質させていく。
変化の中心に立ち、歌うように世界を従えているのはたった一人の少女だ。
「回れ、回れ、水よ。閉ざされた世界の中を回れ。風に導かれ速度を上げ渦を巻け」
水と風の描く円は少女を中心に広がって、やがて《閉ざされた世界の果て》を示す。炎はその内側を万遍無く舐め上げた。清められた大地は、磨き上げられた床のように零された魔力を転がす。
「私達が生まれた瞬間生じた歪みは一日ごとに広がって、一年ごとに形を変えた」
世界に混ざることなくその場にとどまる魔力は、密度を増しやがて閉ざされた世界の中で凝り固まった。
ごろごろと地面に転がる魔力の《石》が増える度、少女が体中に巻きつけた長い鎖が一欠片ずつ砕けて落ちる。
「歪みはやがて世界を呑み込む」
そして最後の鎖が砕けた時、少女の体に巣食う最後の《歪み》が顕現する。
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