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「――やっと見つけた」



 何も無い場所から現われたその人は私を真っ直ぐに見つめ、柔らかい笑みを浮かべていた。



「だ、れ・・」



 誰もが見とれるような笑み。だけど、私の中に広がるのは否定しようのない戦慄。
 助けて。誰にともなく救いを求めた。



「おっと」
「っ」



 何気ないその声が出現しようとしていた力を押さえつける。
 心臓に素手で触れられたような痛みに、私は膝をついた。



「ふぅん、この世界には?力?があるんだね」



 自身の力ではないようだけど。



「僕はウィッチクイーン。君はイヴ? イヴ・リース?」
「は、い・・」



 まるで操られているかのように私の体が意思に背く。
 そう。音もなく地に足を付け、髪の長い女――ウィッチクイーン――は私に一歩近付いた。



「すぐに見つかってよかった」



 コツコツとブーツの底が音を立てる。
 恐怖に染まったはずの思考は、何故か冷静に全てを達観していた。



「そろそろ時間だったんだ」



 私の目の前で立ち止まり、ウィッチクイーンは膝を折る。
 左手にしていた黒い手袋は抜き取られ、温もりの感じられない手の平が、私の頬に添えられた。



「おやすみ。呪われし死竜」



 世界が終末を迎える。
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「イヴ・・・?」

 それは、あまりにも唐突な変化。

「貴女は・・」

 その声に呼び戻される。

「アズラ?」

 失われたはずの記憶。
 生きていくために手放した大切なもの。

「イヴ、髪が・・」
「来ないで」

 冷ややかな声で言い放ち、イヴは肩にかかる髪を背に払った。
 拒まれたアズラは目を見張り立ち止まる。

「エドワードと一緒にいるんでしょ? アズラは」
「なんでそれを・・」

 言動の端。
 ささやかな違和感。

「だってここは第五研究所なのよ。今日ここにいる理由はそれしかない」
「どういう意味?」

 アズラはその表情に困惑を滲ませ、イヴは驚きを悟られぬよう目を細める。
 たった一人で動くべきではなかった。

「そう・・」

 イヴは低く床を蹴った。

「イヴ!?」

 驚いたように声を上げるアズラの鳩尾に拳を入れ、崩れた体を抱きとめる。

「ど、して・・」
「ごめんね」
「イヴ!!」

 見知らぬ声。

「あらら・・」

 その声に振り向いたエンヴィーが声をあげ、イヴは首を傾げる。

「おチビさんと、一緒にいた子?」
「っていうか何でイヴの名前知ってるのさ」

 遠巻きに見ていた。
 太陽のように輝かしい髪を持つ少年の隣にいた、闇色の髪の少女。

「イヴ、なんでここに・・・」
「知り合いなの?」

 ラストの問いにイヴは首を振り、一歩踏み出した。

「イヴ?」
「アズラ・イール・・かな、合ってる? エンヴィー」
「あってるけどさ、いい加減覚えなよ」

 呆れたようなエンヴィーの声。
 苦笑するイヴに違和感を感じ、アズラは一歩後退さった。

「エンヴィーが覚えてれば・・」

 低く床を蹴る。

「問題ないでしょ?」

 鳩尾に拳を入れられ、崩れ落ちるアズラを抱きとめながらイヴは振り返った。
 エンヴィーは「まぁね」と肩をすくめ、ラストは二人を急かし歩き出す。

「持とうか?」
「お願い」

 動かないアズラをエンヴィーに渡し、イヴは一度目を閉じた。
「柘榴、頭が痛い」
「二日酔い」
「いたいの」

 起き上がることもままならないルヴィアの腕がベッドの上から投げ出される
 カーテンを引き、柘榴は仕方なさそうに肩を竦めた

「大丈夫?」
「ぅー・・」

 シーツに埋もれたままルヴィアは首を振る
 広がった髪の隙間から覗くルビーレッドの義眼に手を伸ばし、柘榴はルヴィアに覆いかぶさった

「ほら、こっち向いて」
「・・・」

 薄く開いた唇から覗く牙を首筋に誘い血をわける
 与えすぎないようタイミングをはかり、少しして柘榴はルヴィアの体を押し返した

「頭は?」
「・・大丈夫」

 唇の端から零れ落ちる血を拭ってやり体を起こす
 それにあわせルヴィアも起き上がり、少し重そうに頭を振った

「ありがとう」
「どういたしまして」

 気だるそうに壁に寄りかかり窓の外を見遣る

「紫苑も吸う?」
「何を?」


 ――わかってるくせに


 ベッドを離れない柘榴の首に手を伸ばしルヴィアは笑った

「今度は俺の血に酔った?」
「翼手の血とは違う。この血は私を苦しめない」
「苦しむと解っていて尚口にする理由は?」
「苦しみを忘れない為に」
「不毛だね」
「そんな事言ったら生きていけない」


「柘榴、来て」


 アステリズムの現われたルビーレッドの義眼が全てを捕らえて離さない
 誘われるままルヴィアの首筋に顔を埋め、柘榴は牙をつきたてた

「んっ・・」

 甘く甘い。どこまでもどこまでも

「ざ、くろ・・」
「ん?」

 深くクラク溺れていく
「っ」

 バラバラ バラバラ

「どうして・・」

 バラバラと、その音が聞こえる。

「・・・」

 月に憧れた獣の咆哮が途絶えた。
 ルヴィアはつい数秒前までその声が轟いていた建物を遠目に見やり、近付いてくるヘリの音に耳を澄ます。

「ルヴィア」
「違う。啼き止んだんじゃない、途切れたのよ」

 頭を抱えルヴィアは蹲った。
 バラバラとヘリの羽音が近付き煩さを増す。

「死んだのよ。だって――」

 うわ言の様に虚ろな瞳で呟くルヴィアを抱え上げ、柘榴は紫苑に視線を投げた。
 小さく頷き紫苑は地を蹴る。

「血の匂いがするもの」
「ルヴィア」

 耳元で囁かれルヴィアは視線を上げた。
 柘榴はゆっくりと首に手を回すよう促し、ルヴィアを抱えなおすと紫苑を追う様に自らも地を蹴る。

「ハンターがいるのよ。いいえ、殺戮者が」

 遠い過去で嗅いだ事のある鮮血の香。

「?殺す者??殺すことのできる者?」
「ルヴィア、黙って」
「また来るわ。今度は打ち砕きに」

 全てを見下ろす月が目に付いた。
 バラバラと聴覚を侵すヘリの音。鮮血の香。轟いては途切れる獣の咆哮。

「柘榴、紫苑っ」
「大丈夫。ここにいるよ」

 無人の建物に入り込み柘榴はルヴィアを抱く腕に力を込めた。
 一足先に二人を待ち受けていた紫苑が奥への扉を開け、ルヴィアの世界に漆黒が落ちる。

「柘榴?」
「おやすみ、ルヴィア。ここなら何もルヴィアを苦しめない」

 分厚い壁は月光を遮り、ヘリの羽音を遠ざけた。
 まるで月に憧れたかのように、

「・・・」

 その声は月夜に響き渡った。
 蹲っていた場所からよろよろと歩きだし、その足取りは歩くたび力強くなる。
 闇に紛れていた二つの影が身動ぎ、その後にゆっくりと続いた。

「見つけた・・」

 あの臭いを忘れはしない。
 この声を聞き違えはしない。

「私の餌」

 タンッと軽く地を蹴ればその体は簡単に宙を舞う。
 手近なビルの上に着地し、ルヴィアは迷う事無くまた跳んだ。










 ――狩りの時間だ。










「ぁ――」

 沢山の黒い服。暗闇に潜む銃口。
 近付いてはいけないよ? 彼等は貴女を傷つけるから。

「ルヴィア」

 踏み出そうとした足を阻止する為腰に回された手を見下ろし、ルヴィアは力なく目を閉じた。

「行くぞ」

 そのまま動く事を拒否したルヴィアを両手に抱くと、紫苑に促され柘榴は二機のヘリに背を向ける。

「米軍だよね」
「ああ」
「あー怖い、ロクな事がなさそうだ」

 肩をすくめ自分に続く柘榴と共に紫苑は路地裏に飛び込んだ。
 少しの間薄暗い道を進み、二人して無人の建物に入り込む。

「ルヴィアは?」
「ダメみたいだね、そろそろ絶食も限界だよ」
「・・・ああ」

 ぐったりと落とされた手が痛々しい。
 ルヴィアを抱いたまま壁を背に腰を下ろすと、明り取りの窓から差し込む月光に柘榴は息を吐いた。

「翼手の声が途切れ、そこには米軍」
「・・・それで?」

 窓の下の壁に寄りかかり紫苑は目を閉じる。

「ロクな事がなさそうだ」

 眠りはいらない。
 全ての刻を捧げたのだから。

「杞憂に終わるさ、ルヴィアは眠った。起きる頃には米軍は引き上げここには日常が戻ってる」
「日常?」
「そう、天敵の存在も知らずただ狩られることを待つ人間の日常が」

 腕の中のルヴィアを抱きなおし、柘榴もまた目を閉じた。

「俺達はルヴィアを守る。それだけだろ?」
「――ああ」

 深く暗い眠り。
 飢餓はいつも彼女を蝕んでやまない。
 ゆっくりと必要のない眠りに意識を沈めながら、柘榴はルヴィアを抱く腕に力を込めた。





 せめて、眠りの中では安らかに。
「お前それ騙されてるって、絶対」

 その時話題に上っていた友達とはパソコンでだけ繋がってるのだと聞いて、授業以外パソコンに触れたことのない、そう親しくもない昔のクラスメイトはそう言った

「嘘つかれてるってこと?」
「そうそう、絶対騙されてるって」

 お前バカだよなー

「嘘、ねぇ」

 目の前の机に頬杖をついたまま、私は口角をつり上げる
 まずい。と、そういう雰囲気を出しながら一緒に来ていたアヤは組んでいた足を解き、落ち着きなく膝の上で指を組んだ

「どうして、そう思うの?」

 視線は窓の外に流し、隣の棟にあるの2年のクラスを覗き見る

「そんなの決まってるだろ? だってパソコンだったら嘘つき放題じゃん」

 冬だというのに閉めきられたカーテンは、窓を閉ざし身を寄せ合うこのクラスとの立地条件の違い
 去年までいた所謂古巣は、けれど私がいた頃カーテンを閉ざしはしなかった

「お前、人の心が読めるとか言われて思い上がってんだろ? バッカみてー」

 日の光で勉強しようと誰ともなくカーテンを開けた

「ちょっと、時雨にそういうこと言わないでよ」
「その呼び方だって、なんだよシグレって。お前冬木達には違う名前で呼ばせてんだろ」

 眩しいからと閉めようとする者はいなかった

「冬木達は関係ない。だって、あれはただの友達だから。私の心はしらなくていい」
「なんだよそれ。お前、自分が特別だとでも思ってんの?」
「やめなさいって!」

 集団でいたい。一人になりたくないと

「大体お前クラスにいるときなんでアヤと一言も話さないんだよ。知ってんだぞ! アヤとは他人だとか冬木達に言ってんだろ!?」

 ガタンッ

「・・・だって、冬木達と一緒にいる私はシグレじゃないでしょう?」
「それがおかしいって言ってんだよ!」

 誰も発言力のある女子に逆らいはしなかった

「さっき、私が騙されてるって言ったよね?」
「あぁそうだよ! お前は騙されてる、それにお前も騙されてるんだ。アヤ! 冬木達も他の奴らもみんなっ!!」


「バカな奴」


「はぁ!?」
「ちょっと時雨も、挑発とかそういうことやめてよ! 教師が気付く」
「この部屋防音」
「っ、あんた解っててやったの!?」

 一人では何もできないのに

「そっちの物差しで計るのはやめて、不愉快どころの騒ぎじゃない」
「スカしてんなよ!」

 集まって集まって、その場の流れに呑まれ短絡的な決定を下す

「そっちこそ、何? 正義の味方にでもなったつもり? 他人を騙す悪の化身を追及するの? B級映画にもなりゃしない」
「んなことっ・・」

 過ちに気付いても気付いても、全てをひた隠しまた過ちを繰り返す

「それが嘘かどうかは本人が決める事。ネットでしか繋がっていないのなら、それが私とあいつの真実。冬木達の前ではもう一人の私が真実。アヤの前では、今の私が真実なのよ」
「は?」
「人は全てに平等じゃいられない。わかるでしょ? 誰かの全てを他人が知ることはできないのよ。知ろうとするなら、その人は覚悟しなければならない」
「お前言ってることの意味・・」

 解っていてもやめられない。走り出したら、止まらない

「人は誰しも他人を裏切りながら生きるのよ」
「お前言ってることの意味わかんねー、それって騙してもいいってことかよ」
「騙してなんかないのよ。その人の口で語られることは全て、真実なのだから」
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