飛んでくるバズーカの弾を避けるのは簡単。だけど私が狙われたというのはつまり入れ替わる必要があるということで、無下にするのは憚られた。どのタイミングに呼ばれたとしても死ぬようなことにはならないだろうし。――と、気安く考えていたのが悪かったのか。
「……」
ここで私のターンが来ることは考えてなかった。
「――女…?」
これは下手すると死ぬ。
(幻騎士の前に放り出される)
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「藤堂イツキ…!」
驚愕よりも畏怖の方が色濃い声だ。どうにも十年後の私は恐れられているらしいと、思ったのもつかの間。
「貴様は死んだはずだ!!」
「…はぁ?」
聞き捨てならない科白だ。私が死んだだなんて。
「…生憎ピンピンしてるわよ」
そんなことあるはずないのに。
「雲雀恭弥だったというのか…」
そんなこと、あっていいはずないのに。
(分かってしまった姉)
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「――恭弥が、なに」
「ッ!」
思わず抑えることを忘れた殺気に刃が飛んでくる。条件反射よりも本能に近いような攻撃。だからこそ正直に急所狙いでいて、直前の変化は望めない。
「――あぁ、もう」
そして幸いにも炎は纏っていなかった。
「わけわかんない!!」
(逆ギレ)
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腕に沿わせたトンファーで上手く斬撃を流して、振り抜いた足は体側直撃。だけど浅い。きっと大したダメージは与えられなかっただろう。分かっていて、次の攻撃が来る前に右手を握る。
「アリス!」
足元にあった雲ハリネズミの匣を拾って後ろへ跳ぶと、入れ代わり私のいた場所に現れたアリスはガツリと三叉槍の底で地面を穿った。六道骸と同じモーションで発動する幻覚。生み出されるのも同じ蓮で、ただその勢いは半端じゃない。
「この後どうする?」
正面にいるアリスの声はすぐ耳元で聞こえた。一拍おいて実体が現れ、見ると幻騎士の前に立ちふさがっていた方のアリスは既に跡形もない。
「雲ハリネズミを暴走させるかしてこの辺りのブロックを固定しないと」
「あの男は?」
「まだ出番がある」
「殺すなってか」
「殺していいなら私がやってるわよ」
足止めはある。逃げるのは簡単。だけど流れを壊さないためにここにいるのは恭弥でなきゃ。だって私は持ってない。
「指輪…」
「なに?」
「指輪がいるのよ。ボンゴレリングみたいに力のある指輪。人間の体に流れる波動を死ぬ気の炎に出来るやつ。あれがないとこの時代じゃ戦えない」
「…マーレリングとかヘルリングとかそういう?」
「知ってるの?」
「だてに長生きしてないっての」
(アリスの設定間違えた)
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「力のある石はお前の中にある。思い描いて創り出せ。だが忘れるな。使える炎はお前と私に共通するものだけだ。雲と霧。それ以外は使えない」
「二種類使えるならそれだけで上々よ。――行くわ」
(最後の「行くわ」は攻機の少佐っぽく)
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恭弥は怪我をしなかった。それでも物語は順調に展開してる。イレギュラーは許容範囲内で、問題ないはずなのにどこか落ち着かないのは何故だろう。
「きょうや、」
呼びかけは自分でも驚くほど頼りなかった。本当にちゃんと呼べた分からない。だけど恭弥は振り向いて、私の顔を見ると何でもないことのように言った。
「帰る?」
それでいいのとは、聞けない。
「…眠い」
僕は眠い。だから帰るよ。――すれ違い様に私の手を取った恭弥はそのままなんの躊躇いも見せず歩き続けて、私を側車へ押し込んだ。吹かされたエンジンの音は容赦なく遠くからの声を掻き消してしまう。それが故意なのか偶然なのかは分からなかった。
考えたくもない。
「出すよ」
「うん」
あぁだから、私さえ知っていればそれでよかったのに。
「安全運転でお願い」
「君にだけは言われたくないね、それ」
それでも信じていたいのよ。
(雲の守護者の暴走後)
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「引きずられていますよ」
「…――あぁ、そうなの」
言われるまで気付かないなんて滑稽な話だ。でもきっと無理はない。自分の中にいるもう一人の陰鬱とした状態に感情を引きずられるだなんてこと、そうそう起こりはしないのだから。
「正気を保っていられるだけでも相当人間離れしてますけどね」
「大きなお世話よ」
握り込んだ右手に熱が生まれて、私はその熱をなんの躊躇いもなく投げ捨てる。便利だしあっても邪魔にならないから放っておいただけなのであって、私に害があると分かった以上そのままにしておけるわけがない。
「あとは煮るなり焼くなり、好きにしたら」
「そうですね」
「――イツキ!!」
投げ出された赤い宝石は瞬き一つで血肉を纏い、悲痛な悲鳴を響かせる。けれど私にはもう、その程度で動く感情が残っていない。これはアリスの自業自得だ。
(わたしをゆるがすあなたはいらない)
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跪きながら差し出される手に動く感情はない。ただ冷たく一瞥するに留めるほど無欲でも。
「彼は?」
「……」
「そう…また逃げたの」
「お前が逃げるな、っていうならもう逃げないよ。ちゃんと向き合う。だけどその前に、お願いだから捨てないでくれ」
「あなたはしてはいけないことをしたのよ。それを私に許せっていうの?」
「許さなくていい」
(だけど捨てないで)
広目のベッドに上掛けは二人分。一緒に寝はしてはお互いに背を向け合っていることが常で、手を伸ばすだけで簡単に縮められる距離がなくなることは滅多にない。あったとしてもそれはいつだって私からで、恭弥からはない。
ごろりと恭弥の方へ寝返りを打ち、納まりのいい場所を求めて丸まり直す。
不意に目が覚めたのは思いがけず触れられたからで、けれど眠りを妨げられたことに対する不快感は全くといっていいほどなかった。むしろ何をする気なんだろうと興味の方が勝る。
上掛け越しに頭の上へ乗せられた手はしばらくの間ぴくりともしなかった。それでも辛抱強く待っているとゆるゆる頭の形を確かめるよう動いて、ベッドの傾きが変わる。引き寄せられたように感じたのは錯覚で、実際に寄ってきたのは恭弥の方だ。上掛けの中へ完全に潜り込んで丸くなっている私の頭を抱え込むよう体を寄せて、細々と嘆息。
いっそ引っ張り出してくれればいいのに。
ずるずる上掛けの中へ引きこもうとしたら逆に剥かれた。まぁそれで大人しく抱き込まれてくれるなら構わない。
「ちょっと、」
「んー…」
「…鬱陶しいよ」
口でなんと言おうがそれに見合う攻撃がなければ説得力に欠ける。抱き込んだままの体勢で落ち着こうとしても暴れる素振りさえ見せないのだ。
「なぁ、恭弥?」
「…なに」
「好きだよ」
「だから?」
「大好き」
「寝ぼけてるの」
「愛してる」
「…知ってるよ」
さらさら降りしきる雨の冷たさが心地良くて急ぐでもなく、雨をしのげる場所を探しもせずに帰路を辿った。おかげでマンションのエントランスへ着く頃には髪も服も水を吸ってすっかり重い。
「ばか?」
「う…」
「僕にはあれだけうるさく言っておいて自分はその様なんて呆れてものも言えないよ」
「……そんな気分だったんだよ…」
「濡らしたところは自分でどうにかしなよ」
「はーい…」
「…まだ濡れてる」
「これはシャワー浴びたから」
「ちゃんと乾かしなよ。みっともない」
「お前だって自分のは放っておくくせに…」
「何か言った?」
「いいえ何も」
「かして」
「なに、やってくれんの?」
「いいからかしなよ」
「はいはい」
「――リナ」
「ん…」
「…寝るならベッドに行きなよ」
「もうちょっと…」
「何が」
「――くしっ」
「…風邪?」
「ただのくしゃみだよ。風邪なんて生まれてこの方引いたことない」
「あぁ、馬鹿だからね」
「お前それ酷くないか」
「抱きしめて!」
「嫌だ」
「えぇー…」
「いつもみたいに勝手にしなよ」
「違うよ恭弥から抱きしめて欲しいんだよ。こう、ぎゅーっと」
「そのまま落としていい?」
「おまっ、可愛く小首を傾げてなんつーことを…」
「それでもいいなら抱きしめてあげなくもないけど」
「抱きしめさせてください…」
「どうぞ」
(されるのはいいけどするのは面倒)
----
「……やば、ねてたし…」
「まだ時間じゃないよ」
「恭弥…」
「もう少し寝てたら?」
「もう目が覚めた。っていうかお前、なんでここにいるんだよ」
「誰かさんが寝過ごさないように」
「う…」
(居眠りラッシュととりあえず暴れたい十年後の恋人)
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「ぼっくすへいき…」
「君には無用の長物だけどね」
「ん?」
「君の蝶の方がよっぽど使える」
「あれと比べるのは違うだろ」
「仕組みは大して変わらないよ」
「そうなのか?」
「人の命の炎で動くんだ。君と同じ」
「私が匣兵器みたいな言い様…」
「そう言ったんだよ」
(未来編はまだ色々考え中)
リナと別れて以来、付かず離れず側を飛んでいた黒い蝶が形を崩す。それを横目に、雲雀は何食わぬ顔でその場を離れた。途中誰にも呼び止められることなく――されたところで無視しただろうが――裏門まで歩くと、見覚えのある深紅の車が目の前へ滑り込んでくる。
「おつかれ」
運転席から身を乗り出して助手席側のドアを開けたリナの言葉は、すとんと雲雀の中に落ちた。確かに疲れているかもしれない。血を流しすぎたから。
納得するよう疲労を自覚した雲雀は遠慮なく革のシートを血で汚し、頬の傷を辿るリナの手は放っておいた。押し付けられた唇が治療のためかそうでないかは定かでないが、ここで眠ってしまえば同じこと。目が覚める頃には全て治療されているに決まっている。リナは雲雀の体に傷が残るを酷く嫌っているから。
(大空戦直後。おつかれひばり)
----
「悪いな」
「何が?」
「ダシにして」
「気にしてないわよ。それに、組織にとってもいい機会だわ」
「Bonjour. ドン・ボンゴレ」
「行っていいわよ」
「でもなぁ…名ばかりとはいえ一応護衛だし」
「私に護衛なんていらないって、知ってるでしょ?」
(捏造継承式。お呼ばれしなくても行くラッシュ)
イツキの体は時々おかしくなる。その「時々」は決まって恭弥に会えない時だ。だから恭弥はイツキの不調を知らないし、イツキも気付かれるような下手は打たない。私は口止めされているから言えないし、骸はそれとなく気付いてはいるのだろうが、恭弥に告げ口するほどの確証は持てていないはず。
----
目が覚めると世界は音を失くしていた。静寂とは違う全くの無音。これはさすがに面倒だと、思わず顔を顰めてしまう。耳はまずい。それに今日は恭弥が帰ってくる日だ。今までこんなことなかったのに。
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まずい。
『唇の動きを読んでるね』
「や…」
『聞こえてないんだろ』
「……」
『いつから』
「…起きたら…」
『どうしてすぐ言わないのさ』
「すぐ治るかと…」
『…初めてじゃないね』
「え?」
『今までにも似たようなことがあった。違う?』
「あー…」
『洗いざらい吐いてもらうよ』
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