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 微かな音を耳に留めカノンは立ち止まった。
 その音は本当に小さくて、こんな鬱蒼とした森の中では風の音に掻き消されてしまうはずなのに、何故が聞こえた。



「・・・」



 大木の根元に、一匹の狼。
 傷ついた体からはとめどなく血が流れ出していて、誰が見てももう助からない事は一目瞭然だった。
 カノンが近付いても、身動ぎ一つしない。



「仲間はいないの?」



 それとも、仲間にやられた?
 カノンの問いかけに傷ついた狼は答えなかった。
 ただ気だるそうに瞼を上げて、緋色の瞳にカノンを映す。



「死が怖くないのね」



 夜明け前の湖の様に澄んだその瞳に、



「生きているくせに」



 そっと伸ばされたカノンの手を、狼は拒まなかった。
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