「ツクヨミ」
目覚めた時辺りは見知らぬ場所だった。
影の中に潜んでいるはずのサクヤはいないし、傍らにいたはずのカゲツもいない。
「・・・」
そしてツクヨミも。
大体ツクヨミの異界で眠ったのだから、目覚めたとき全く知らない場所にいる訳がない。自分は月光華そのもので、その存在を守っているのはツクヨミノミコトとその両腕たる【暁闇】の生み出した狼たちなのだから。
つまりここは夢の中。どこまでもどこまでも代わり映えしない景色が続くこの世界は、私自身が紡いだ幻想。
代わり映えのしない、孤独で空虚なこの世界に私を閉じ込めたのは・・紛れもない私自身。
「満月、か」
漆黒の空を見上げて小さく呟く。月の力を得るより前は、ずっとこうして空を――そこに浮かぶ金色[コンジキ]の月を――見上げていた。それ以外の物を見ようとも思わなかった。
月はまだ金色。私が手に入れた輝きは銀。
四肢を絡め取るように動き出した月光華の蔓に身を任せ、地面へと倒れ込んだ。
「出られない・・」
焦るでもなく目を閉じ、イザは息を吐く。
絡み付く月光華が力を増し、その花弁を朱に染めた。
「・・・」
痛みはない。
けれどただ無性に哀しかった。自分の心は自分自身を夢に閉じ込め傷つけてしまう程に病んでいる。その事実が。
__トスッ
唐突に現れた【黒蝶】が支えるものもなく落下し、地面に突き立った。
視線だけを黒曜石の刃に向けイザはまた息を吐く。
「私が私を捕らえて放さない」
どこからか現れた【黒蝶】で月光華を切り裂けば、目覚める事が出来る。
「私が私を傷つける」
切り裂く事が、出来れば――
「月光華」
たとえツクヨミが呼んでいても応えられない。私を捕らえたのは私自身で、私は心のどこかでまたこうして手の届かない月を見上げることを望んでいる。
金の月が恋しくなる。
「この身滅ぼし共に眠るか」
はっきりと紡がれた言葉に月光華の蕾が花開き、【黒蝶】の刃が瞬いた。
「・・疲れたんだね」
――イザ
届かない呼び声が遠くから聞こえた。
目覚めた時辺りは見知らぬ場所だった。
影の中に潜んでいるはずのサクヤはいないし、傍らにいたはずのカゲツもいない。
「・・・」
そしてツクヨミも。
大体ツクヨミの異界で眠ったのだから、目覚めたとき全く知らない場所にいる訳がない。自分は月光華そのもので、その存在を守っているのはツクヨミノミコトとその両腕たる【暁闇】の生み出した狼たちなのだから。
つまりここは夢の中。どこまでもどこまでも代わり映えしない景色が続くこの世界は、私自身が紡いだ幻想。
代わり映えのしない、孤独で空虚なこの世界に私を閉じ込めたのは・・紛れもない私自身。
「満月、か」
漆黒の空を見上げて小さく呟く。月の力を得るより前は、ずっとこうして空を――そこに浮かぶ金色[コンジキ]の月を――見上げていた。それ以外の物を見ようとも思わなかった。
月はまだ金色。私が手に入れた輝きは銀。
四肢を絡め取るように動き出した月光華の蔓に身を任せ、地面へと倒れ込んだ。
「出られない・・」
焦るでもなく目を閉じ、イザは息を吐く。
絡み付く月光華が力を増し、その花弁を朱に染めた。
「・・・」
痛みはない。
けれどただ無性に哀しかった。自分の心は自分自身を夢に閉じ込め傷つけてしまう程に病んでいる。その事実が。
__トスッ
唐突に現れた【黒蝶】が支えるものもなく落下し、地面に突き立った。
視線だけを黒曜石の刃に向けイザはまた息を吐く。
「私が私を捕らえて放さない」
どこからか現れた【黒蝶】で月光華を切り裂けば、目覚める事が出来る。
「私が私を傷つける」
切り裂く事が、出来れば――
「月光華」
たとえツクヨミが呼んでいても応えられない。私を捕らえたのは私自身で、私は心のどこかでまたこうして手の届かない月を見上げることを望んでいる。
金の月が恋しくなる。
「この身滅ぼし共に眠るか」
はっきりと紡がれた言葉に月光華の蕾が花開き、【黒蝶】の刃が瞬いた。
「・・疲れたんだね」
――イザ
届かない呼び声が遠くから聞こえた。
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遠くで 私を呼んで
私は ただただ無力で
共にいる術をしらない
連れて行って 優しい人
臆病な手を引いて微笑んで
私の願いを叶えて
「ねぇ、千尋」
もしも願いが叶うなら
「私ね?」
ずっと二人でいたかった
私は ただただ無力で
共にいる術をしらない
連れて行って 優しい人
臆病な手を引いて微笑んで
私の願いを叶えて
「ねぇ、千尋」
もしも願いが叶うなら
「私ね?」
ずっと二人でいたかった
「ツクヨミ」
目覚めた時辺りは見知らぬ場所だった。
影の中に潜んでいるはずのサクヤはいないし、一緒にいたはずのアサギも、カゲツもいない。
「・・・」
そしてツクヨミも。
大体ツクヨミの異界で眠ったのだから、目覚めたとき全く知らない場所にいる訳がない。自分は月光華そのもので、その存在を守っているのはツクヨミノミコトとその両腕たる【暁闇】の生み出した狼たちなのだから。
つまりここは夢の中。どこまでもどこまでも代わり映えしない景色が続くこの世界は、私自身が紡いだ幻想。
代わり映えのしない、孤独で空虚なこの世界に私を閉じ込めたのは・・紛れもない私自身。
「満月、か」
漆黒の空を見上げて小さく呟く。月の力を得るより前は、ずっとこうして空を――そこに浮かぶ金色[コンジキ]の月を――見上げていた。それ以外の物を見ようとも思わなかった。
月はまだ金色。私が手に入れた輝きは銀。
四肢を絡め取るように動き出した月光華の蔓に身を任せ地面へと倒れこんだ。
「出られない・・」
焦るでもなく目を閉じ、イザは息を吐く。
絡み付く月光華が力を増し、その花弁を朱に染めた。
「・・・」
痛みはない。
けれどただ無性に哀しかった。自分の心は自分自身を夢に閉じ込め傷つけてしまう程に病んでいる。その事実が。
__トスッ
唐突に現れた【黒蝶】が支えるものもなく落下し、地面に突き立った。
視線だけを黒曜石の刃に向けイザはまた息を吐く。
「私が私を捕らえて放さない」
どこからか現れた【黒蝶】で月光華を切り裂けば目覚める事が出来る。
「私が私を傷つける」
切り裂く事が、出来れば――
「月光華」
たとえツクヨミが呼んでいても応えられない。私を捕らえたのは私自身で、私は心のどこかでまたこうして手の届かない月を見上げることを望んでいる。
金の月が恋しくなる。
「この身滅ぼし共に眠るか」
はっきりと紡がれた言葉に月光華の蕾が花開き、【黒蝶】の刃が瞬いた。
「・・疲れたんだね」
目覚めた時辺りは見知らぬ場所だった。
影の中に潜んでいるはずのサクヤはいないし、一緒にいたはずのアサギも、カゲツもいない。
「・・・」
そしてツクヨミも。
大体ツクヨミの異界で眠ったのだから、目覚めたとき全く知らない場所にいる訳がない。自分は月光華そのもので、その存在を守っているのはツクヨミノミコトとその両腕たる【暁闇】の生み出した狼たちなのだから。
つまりここは夢の中。どこまでもどこまでも代わり映えしない景色が続くこの世界は、私自身が紡いだ幻想。
代わり映えのしない、孤独で空虚なこの世界に私を閉じ込めたのは・・紛れもない私自身。
「満月、か」
漆黒の空を見上げて小さく呟く。月の力を得るより前は、ずっとこうして空を――そこに浮かぶ金色[コンジキ]の月を――見上げていた。それ以外の物を見ようとも思わなかった。
月はまだ金色。私が手に入れた輝きは銀。
四肢を絡め取るように動き出した月光華の蔓に身を任せ地面へと倒れこんだ。
「出られない・・」
焦るでもなく目を閉じ、イザは息を吐く。
絡み付く月光華が力を増し、その花弁を朱に染めた。
「・・・」
痛みはない。
けれどただ無性に哀しかった。自分の心は自分自身を夢に閉じ込め傷つけてしまう程に病んでいる。その事実が。
__トスッ
唐突に現れた【黒蝶】が支えるものもなく落下し、地面に突き立った。
視線だけを黒曜石の刃に向けイザはまた息を吐く。
「私が私を捕らえて放さない」
どこからか現れた【黒蝶】で月光華を切り裂けば目覚める事が出来る。
「私が私を傷つける」
切り裂く事が、出来れば――
「月光華」
たとえツクヨミが呼んでいても応えられない。私を捕らえたのは私自身で、私は心のどこかでまたこうして手の届かない月を見上げることを望んでいる。
金の月が恋しくなる。
「この身滅ぼし共に眠るか」
はっきりと紡がれた言葉に月光華の蕾が花開き、【黒蝶】の刃が瞬いた。
「・・疲れたんだね」
「おまっ・・相手は子供だぞ!」
「どうかしら」
琥珀を担いだ柘榴を残しルヴィアは低く地を蹴った。
まるで蝶の様に羽化しようとした翼手の一体を切り刻み、腕についた返り血を舐め上げる。
「柘榴、琥珀に傷なんてつけないでね」
飛びかかってきた翼手を蹴り飛ばし、真っ二つにし、銃弾を受け尚立ち上がるそれを切り刻む。大量の翼手を相手にするのはこれで二度目。
「あーあ」
耳朶を打つ懐かしい声にファントムのいたバルコニーを仰いだ。
「サフィア」
「久しぶり、ルヴィア姉さん」
手摺の上に腰掛け、サフィアは立てた膝に寄りかかる。
「本当に・・」
タンッと高く跳びルヴィアはバルコニーに消えた。
先に行け。と視線だけで他のメンバーに促し、柘榴もすぐにその後を追う。
「これが何か分かる?」
体の向きを変え、手摺から降りたサフィアは銀色の鎖が覗く胸元を肌蹴た。
「Silver Rose・・」
ルビーレッドの義眼に暗い光が宿る。
左手の短剣を逆手に構えなおし、バルコニーの床を蹴ったルヴィアにサフィアは笑った。
仰け反る様に体を反らし、手摺に手をつくとそのまま体を宙に投げ出す。
「返して」
「誰が」
追い縋るように手摺を蹴ったルヴィアの後姿を見送り、柘榴は苛立たしげに舌打ちした。
「何であいつが」
サフィアがサーベルを抜いたのだろう、下からは不規則な金属音が聞こえてくる。
「・・殺されに来たのか」
アステリズムの現れたルヴィアが【Silver Rose】最強である事を誰も否定出来はしない。だから誰もが彼女の力を封じようとした。
「・・・」
到底封じられるような物でもなかったけれど。
「どうかしら」
琥珀を担いだ柘榴を残しルヴィアは低く地を蹴った。
まるで蝶の様に羽化しようとした翼手の一体を切り刻み、腕についた返り血を舐め上げる。
「柘榴、琥珀に傷なんてつけないでね」
飛びかかってきた翼手を蹴り飛ばし、真っ二つにし、銃弾を受け尚立ち上がるそれを切り刻む。大量の翼手を相手にするのはこれで二度目。
「あーあ」
耳朶を打つ懐かしい声にファントムのいたバルコニーを仰いだ。
「サフィア」
「久しぶり、ルヴィア姉さん」
手摺の上に腰掛け、サフィアは立てた膝に寄りかかる。
「本当に・・」
タンッと高く跳びルヴィアはバルコニーに消えた。
先に行け。と視線だけで他のメンバーに促し、柘榴もすぐにその後を追う。
「これが何か分かる?」
体の向きを変え、手摺から降りたサフィアは銀色の鎖が覗く胸元を肌蹴た。
「Silver Rose・・」
ルビーレッドの義眼に暗い光が宿る。
左手の短剣を逆手に構えなおし、バルコニーの床を蹴ったルヴィアにサフィアは笑った。
仰け反る様に体を反らし、手摺に手をつくとそのまま体を宙に投げ出す。
「返して」
「誰が」
追い縋るように手摺を蹴ったルヴィアの後姿を見送り、柘榴は苛立たしげに舌打ちした。
「何であいつが」
サフィアがサーベルを抜いたのだろう、下からは不規則な金属音が聞こえてくる。
「・・殺されに来たのか」
アステリズムの現れたルヴィアが【Silver Rose】最強である事を誰も否定出来はしない。だから誰もが彼女の力を封じようとした。
「・・・」
到底封じられるような物でもなかったけれど。
「カノン」
背後からかけられた声にカノンは立ち止まることもせず、目の前に立ちはだかる扉を押し開けた。
廊下の向こうから駆けて来たルシアはその扉が閉ざされる前に慌てて室内へと滑り込み、片手の鞄を床に下ろす。
「カノン、いい加減機嫌直せよ」
「不機嫌なわけじゃない」
「思いっきり不機嫌だろ、今」
「違う」
チェストの上に置かれていた電話のコードを勢いつけて引き千切り、無駄に大きい窓にカーテンを引き、カノンは脱いだコートをソファーに投げつけた。
「不愉快なだけだ」
そして一言吐き捨ててバスルームへと消える。
「だから、不愉快で不機嫌なんだろ?」
一時[ヒトトキ]の静寂が落ちた室内でルシアが呆れたように溜息をついた。
背後からかけられた声にカノンは立ち止まることもせず、目の前に立ちはだかる扉を押し開けた。
廊下の向こうから駆けて来たルシアはその扉が閉ざされる前に慌てて室内へと滑り込み、片手の鞄を床に下ろす。
「カノン、いい加減機嫌直せよ」
「不機嫌なわけじゃない」
「思いっきり不機嫌だろ、今」
「違う」
チェストの上に置かれていた電話のコードを勢いつけて引き千切り、無駄に大きい窓にカーテンを引き、カノンは脱いだコートをソファーに投げつけた。
「不愉快なだけだ」
そして一言吐き捨ててバスルームへと消える。
「だから、不愉快で不機嫌なんだろ?」
一時[ヒトトキ]の静寂が落ちた室内でルシアが呆れたように溜息をついた。
微かな音を耳に留めカノンは立ち止まった。
その音は本当に小さくて、こんな鬱蒼とした森の中では風の音に掻き消されてしまうはずなのに、何故が聞こえた。
「・・・」
大木の根元に、一匹の狼。
傷ついた体からはとめどなく血が流れ出していて、誰が見てももう助からない事は一目瞭然だった。
カノンが近付いても、身動ぎ一つしない。
「仲間はいないの?」
それとも、仲間にやられた?
カノンの問いかけに傷ついた狼は答えなかった。
ただ気だるそうに瞼を上げて、緋色の瞳にカノンを映す。
「死が怖くないのね」
夜明け前の湖の様に澄んだその瞳に、
「生きているくせに」
そっと伸ばされたカノンの手を、狼は拒まなかった。
その音は本当に小さくて、こんな鬱蒼とした森の中では風の音に掻き消されてしまうはずなのに、何故が聞こえた。
「・・・」
大木の根元に、一匹の狼。
傷ついた体からはとめどなく血が流れ出していて、誰が見てももう助からない事は一目瞭然だった。
カノンが近付いても、身動ぎ一つしない。
「仲間はいないの?」
それとも、仲間にやられた?
カノンの問いかけに傷ついた狼は答えなかった。
ただ気だるそうに瞼を上げて、緋色の瞳にカノンを映す。
「死が怖くないのね」
夜明け前の湖の様に澄んだその瞳に、
「生きているくせに」
そっと伸ばされたカノンの手を、狼は拒まなかった。
その輝かしい魂をずっと見続けてきた。
「暇な奴」
隣に立つ無粋な来訪者へと一瞥すらくれずルシフェルは動かない。
その視線を釘付ける存在に小さく舌打ちし、セエレは軽く右手を上げた。
「やめろ」
途端静止がかかる。
自分がこの空間に無断で侵入しようと何も言わなかったのに、だ。
「あんなガキの何がいいんだよ」
「さぁな」
気に入らない。
「じゃあ、いいだろ」
「チッ」
振るわれた力を打ち消すように力を振るいルシフェルは立ち上がった。
じろりと睨まれたセエレはぱっと姿を消し、そのまま行方を晦ます。
「・・・」
何もない空間にぽっかりと口を開けた光の向こうに、小さな人影があった。
稀に来る同胞はいつも同じことばかり言う。ナゼアンナモノニココロウバワレタ。
「お前等には見えないのか、あの輝きが」
どこまでも強く、清らかで、きっと何者にも染まらないであろう輝き。
一目見て魅せられた。理由なんて必要ない。
「貴様には見えるというのか、ルシフェル」
「――ヴィエナか」
「答えろ」
お前には何が見えている。
「光だ」
「暇な奴」
隣に立つ無粋な来訪者へと一瞥すらくれずルシフェルは動かない。
その視線を釘付ける存在に小さく舌打ちし、セエレは軽く右手を上げた。
「やめろ」
途端静止がかかる。
自分がこの空間に無断で侵入しようと何も言わなかったのに、だ。
「あんなガキの何がいいんだよ」
「さぁな」
気に入らない。
「じゃあ、いいだろ」
「チッ」
振るわれた力を打ち消すように力を振るいルシフェルは立ち上がった。
じろりと睨まれたセエレはぱっと姿を消し、そのまま行方を晦ます。
「・・・」
何もない空間にぽっかりと口を開けた光の向こうに、小さな人影があった。
稀に来る同胞はいつも同じことばかり言う。ナゼアンナモノニココロウバワレタ。
「お前等には見えないのか、あの輝きが」
どこまでも強く、清らかで、きっと何者にも染まらないであろう輝き。
一目見て魅せられた。理由なんて必要ない。
「貴様には見えるというのか、ルシフェル」
「――ヴィエナか」
「答えろ」
お前には何が見えている。
「光だ」
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