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 ――ここだよ





「・・・また聞こえた」



 頭の中に直接響くような、それでいて不快感を感じない〝声〟。
 手をかけた扉の向こうに探るような目を向け、暁羽は開けるか否かを躊躇した。

 選択肢は既に絶たれている。



「祝いなんて・・白々しい」



 オートロックのランプが赤から青に変わった。暁羽は扉を引く。何の抵抗もなく扉は開くが、その一寸先はまさしく闇だ。――卑弥呼の寄越すものにろくなものはないという嫌な確信だけが、思考の中で渦を巻く。
 どうか最悪の事態だけは避けられるようにと、暁羽は祈った。










 ――従え










「・・・」



 初めて目にする本当の世界は酷く眩しかった。
 けれど不思議と、あの単色の世界に還りたいとは思わなかった。



「だれ・・だ」



 鮮やかに色付き、輝く世界。私の中にはなかった彩色が、私の中へと流れ込む。



「おまえは、」



 光を求めたことはないはずだった。闇に在れば、傷つけられることもないから。



「お前は、誰だ?」










 なのに私は、ここに在り続ける事を望んだ。









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「おかしいと思わない?」
「おかしすぎてどれの事だか」
「気配。その妖狼に言霊が一切効かないなら放った探りにかからなくても不思議じゃないけど、たまにそれらしい気配を感じる」
「でも気配があった所に行っても何もない」
「走り回ってるからでしょ」
「・・あらゆる能力の無効化が奴の力だったとして・・・それが安定してないってことか?」
「それだけではなく他にも力があって、それを行使するために能力無効状態を解かざろうえない。連続した使用が出来ない。感情の起伏によって波がある。・・力が安定していないように思える理由なんて、腐るほどある」
「じゃあ何がおかしいんだよ」
「気配に色がない」



 島を囲むように張り巡らせた結界の内側を、あてもなく探すことにいい加減嫌気が差した暁羽は、不機嫌であることを隠そうともせず華月を睨み付けた。
 睨まれた華月は告げられた言葉の重大さに目を瞠り、あたふたと意味もなく両手を彷徨わせる。



「おまっ、何でそれを早く・・」
「ついさっき、結界の中をカヅキの力で満たしてから気付いたの」
「色がないって・・・・・クソ、卑弥呼の奴気付いてて俺に回しやがったな」
「確証はなかったんじゃない?」
「普通は言うだろ。大体そうかもしれないんならこんな苦労しなくたって・・・」



 咆哮。




「ミヤビって猫舌?」



 冷ましもせず紅茶に口をつけた千尋は悪気なく尋ねたが、ミヤビは恨みがましい目で彼女を見た。



「猫舌っていうなよ、熱いの駄目なだけじゃん」
「それを猫舌っていうんだよ」
「猫舌ってゆーな」



 ミヤビが何故「猫舌」という例えに拘るのか、思い当たる節のあるサクは小さく笑みを零し、千尋に耳打ちする。



ミヤビは妖狐だから
「・・・あぁ、そういうこと」
「・・なんだよ」
「別に? 変なこと気にするんだなぁと思って」
「うるせぇ」
「変なの」



 千尋はサクと目配せし笑った。









 この手で死を紡ぎ、飛び散る鮮血で瞳を染め、泣き叫びながら命を乞う虫けら共を少しでも減らすことが、私達の望み。私を一番最初に動かした願望。
 そのために私達は武器を取る。そのために私達は不必要な物を切り捨てる。そのために私達は必要なものを同化する。そのために、私達は学ばなければならない。――世界を。





 そう思っていた。





「・・・・・」



 だけど今は違う。私はあの時の私じゃない。誰かを守るために力を揮う事を選んだ。もう一人の私は私を守るために力を揮うことを選択した。










 なのに世界はそんなこと許してはくれないんだ。










 耳を塞ぎたくような咆哮が轟いた。





 ぴりぴりと肌を刺す殺気混じりのそれに、クライシスはバルコニーから身を乗り出し庭を見下ろす。



「誰がリークメシアを怒らせた?」



 テーブルを囲む仲間の視線を一身に受けたイヴリースは、心外だといわんばかりに肩を竦め、咆哮の聞こえた方へと目を向けた。



「どこぞの雑魚だろう」



 暗に自分ではないと主張するイヴリースを胡乱気に睥睨し、クライシスもまた森の向こうに目を凝らす。



「・・遠いな」
「お前でも見えないのか?」
「目はリークメシアの方がいい。――アイリス、何か見えないのか?」
「・・・」



 クライシスに見えるのはどこまでも続く「死の森」と、連なる山々。庭にいるイヴリースたちにはその半分も見えていないのだろうが、それでもあの目立つ蒼の竜は見当たらない。山の向こうで暴れているのか、どこぞの谷に潜っているのか。
 目視での確認を諦めまた庭へと目を落とせば、瞑想するかのように目を閉じたアイリスを正面に座るイヴリースが楽しげに見守っていた。
 ついこの間リークメシアに手を出すなと言われたばかりなのに、全く懲りていないらしい。



「――血の海」



 ぽつりとそれだけ言って、アイリスはクッキーに手を伸ばす。
 それを聞いたイヴリースは空になったカップに紅茶を注ぎ足そうともせず、席を立った。



「行ってみないか?」



 声をかけられた藤彩は悩むような仕草と共に首を傾げる。



「連れて行ってくれる?」



 イヴリースは嬉々として答えた。



「もちろん」










「相変わらず・・」



 藤彩の手をとりふわりと宙に浮き上がったイヴリースが、クライシスの呆れ混じりに零された言葉を聞きとがめバルコニーを仰ぐ。



「相変わらず?」



 その視線は緩やかに上昇を続け、やがてクライシスを追い越した。



「羽も使わずに飛ぶんだな、お前は」
「なんだ、そんなことか」



 誘われる藤彩の顔に恐怖の色はなく、――竜である自分でさえなんの支えもなしに宙に浮くなんて考えられないというのに――ただ一片の疑いもない視線が人に擬態した己の竜を見つめる様に、簡単にも似た吐息が零れる。



「妖狐なんかは、よくやっているじゃないか」



 バサリと風を打つ音がして、渦を巻いた風から刹那目を逸らした隙に、本来の姿へと戻りイヴリースは飛び立った。
 晴れ渡った空に白銀の輝きが舞い上がる。さながら光の獣。祝福された存在と呼ぶうる者がいるのなら、彼女こそそれに相応しい。



「狐は狐火を足場にしてるんだ、阿呆」






























「己が欲望のまま略奪を繰り返す下等生物がっ」



 鞭のように振るわれた尾が風を切り群がるドワーフを蹴散らした。
 一向に減らないその数に、募る苛立ちが炎となって撒き散らかされる。

 空よりも深い青をした、蒼い炎が。





「――ブルーフレイム」





 クツクツと楽しげな笑い声が怒りに染まったリークメシアの思考に、唐突に割り込んできた。



「その爪と牙で敵を切り裂くなど、野蛮なことをしてくれるなよ」



 途端、それまでの激情が嘘のように静まってしまう。
 吐き出しかけた火炎は喉の奥へと引き返し、苛立たしげに地を打っていた尾は、戦慄し動きを止めたドワーフを蹴散らすこともなく下ろされた。



「貴方はブルーフレイムなのだから、その名に恥じない戦い方をしなくちゃね」



 頭上で旋回を始めた銀の竜の背から嬉々として躍り出た藤彩は、事も無げに着地してみせるとそう言って、普段イヴリースがみせるものとは正反対の、屈託のない笑みを浮かべる。
 その手には一振りの刀が握られていた。



「それにもう十分暴れただろう」



 いつの間にか人の姿に擬態していたイヴリースが、空の高みからリークメシアを見下ろす。



「残りは私の藤彩におくれ」



 答を必要とする問いかけではなかった。










 耳を塞ぎたくような咆哮が轟いた。





 ぴりぴりと肌を刺す殺気混じりのそれに、クライシスはバルコニーから身を乗り出し庭を見下ろす。



「誰がリークメシアを怒らせた?」



 テーブルを囲む仲間の視線を一身に受けたイヴリースは、心外だといわんばかりに顔を顰め、咆哮の聞こえた方へと目をやった。



「どこぞの雑魚だろう」



 暗に自分ではないと主張するイヴリースを胡乱気に睥睨し、クライシスもまた森の向こうに目を凝らす。



「・・遠いな」
「お前でも見えないのか?」
「目はリークメシアの方がいい。――アイリス、何か見えないのか?」
「・・・」



 クライシスに見えるのはどこまでも続く「死の森」と、連なる山々。庭にいるイヴリースたちにはその半分も見えていないのだろうが、それでもあの目立つ蒼の竜は見当たらない。山の向こうで暴れているのか、どこぞの谷に潜っているのか。
 目視での確認を諦めまた庭へと目を落とせば、瞑想するかのように目を閉じたアイリスを正面に座るイヴリースが楽しげに見守っていた。
 ついこの前リークメシアに手を出すなと言われたばかりなのに、あいつはまだ懲りないらしい。



「――血の海」



 ぽつりとそれだけ言って、アイリスはクッキーに手を伸ばす。
 それを聞いたイヴリースは空になったカップに紅茶を注ぎ足そうともせず、席を立った。



「行ってみないか?」



 声をかけられた藤彩は悩むような仕草と共に小首を傾げる。



「連れて行ってくれる?」



 イヴリースは嬉々として答えた。



「もちろん」




 それは恐怖だ。









 恐怖に駆られ走る足は思うように動かず、縺れそうになる度リナは自分自身の足を撃ち抜きたい衝動に駆られた。ロスト・エンジェルを持っていれば間違いなくそうしただろうに、愛銃は今日に限ってベッドサイドに置き去りだ。
 恐怖だけがリナの思考を支配する。微かに見え隠れする理性は到底自分の物とは思えないほどに脆弱だった。これではイレイザーとして機能しない。だが今のリナにそんなことを考える余裕はない。
 夜通し降り続いた雨が止み黒く濡れたアスファルトの上を疾走する。恐怖から逃れるために。そんな物ありはしないと、リナを宥めるエキドナの声は聞こえなかった。



 静寂。それが恐怖の名。



 二人でいる事があたりまえだった。リナにとってエキドナはもう一人の自分で、同時に自分自身でもあった。自分たちの生きる世界に与えられる全ては共有され――記憶も、痛みも、激情も――互いの思考に境界線など引かれはしない。立ちふさがる全ての問題は二人で解決すべきなのだ。




「エキドナ・・・っ」




 なのに今、その声が聞こえない。その存在が見つからない。

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