05.
また一人、そこにいたはずのクラスメイトが消えた。あたし以外誰もそのことに気付かない。これじゃああたしの頭がおかしいみたいじゃないか。
「おはよーアヤカ」
「おはよ」
誰かが消える度、誰かが現れる。あたしの知らないクラスメイトが増えていく。こんなのおかしい。普通じゃない。ありえない。人が消えて、誰もそのことに気付かない、なんて。
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04.
自分でも醜いとわかっていた。私がもっと大人で、もっと美人で、もっと頭がよかったら、きっと諦めもついたのに。・・・それどころか、こんな思いすらしなくてすんだだろう。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「さよなら、ヒカル」
私は醜い女。好きですってたった一言伝える勇気もなく、大切な友達に大好きな人を盗られたって勘違いして、逆恨みして、とんでもない間違いを犯す愚かな女。
でもそれでいいの。
「ばいばい」
これで貴女は消えちゃうんだから。
03.
クロネコは言いました。
「あなたはどうして望むのでしょう」
少女は答えました。
「それがヒトというものです」
クロネコは笑いました。
「なんと罪深い」
少女は笑いませんでした。
「クロネコさん」
クロネコは笑い続けていました。
「なんでしょう」
少女はクロネコのように笑おうとはしませんでした。
「あなたはどうして望まないのでしょう」
クロネコは哂[ワラ]うことをやめようとはしませんでした。
「それがクロネコというものです」
少女はクロネコの真実[ホントウ]を知っていました。
「なんて罪深い」
クロネコもそのことを知っていて、2人は共犯者でした。
「そう、罪深いのです」
2人っきりの共犯者です。
「何故罪深いのでしょう」
でも誰も、2人が何の罪を犯したのかは知りませんでした。
「私たちが生きているからですよ、お嬢さん」
誰も、誰もが共犯者であることに気付きませんでした。
長い銀髪を風にそよがせ、眠たげに瞬いていたラヴィーネをディオスが抱き上げる。
漸く定位置に戻った少女はすぐに眠りへと引き込まれ、ややもしないうちに、小さな頭はディオスの肩に頼りきりとなった。
そうしている様はまさに人形。だが残念なことに彼女には自我があり、これが本来の姿ではない。むしろ人形じみた彼女を抱いている自分こそが傀儡だ。
「ねぇ、ディオス」
「はい?」
移動の揺れで一々起きるほど繊細とは言い難い彼女は、今にも落ちてしまいそうになる瞼をなんとか押し留め、煩わしげに身を捩る。
自らの欲求には常に忠実である彼女らしからぬ行動だ。
「人間になりたかったら、そう言っても良いのよ?」
腕の中の温もりが完全に意識を手放すと、確かな重みだけが残される。
「僕が、人間に?」
嗚呼でもそれは、きっと許されないことなのでしょう。眠り姫の騎士は主の眠りを妨げぬよう、王子でさえも殺してしまいなさいと、命じたのは他ならぬ貴女。それを為し得るのはひとえに僕が人形であるからだ。主に貰った心と体と、主の剣で戦う僕は所詮「愚かな道化[オーギュスト]」。貴女の眠りは守れても、貴女を目覚めさせることなんてできない。
「そんなこと言わないで、ラヴィーネ・・・」
僕は傀儡、貴女の人形。どうかいらないなんて言わないで、眠り姫。
「僕はここにいたいんだ」
漸く定位置に戻った少女はすぐに眠りへと引き込まれ、ややもしないうちに、小さな頭はディオスの肩に頼りきりとなった。
そうしている様はまさに人形。だが残念なことに彼女には自我があり、これが本来の姿ではない。むしろ人形じみた彼女を抱いている自分こそが傀儡だ。
「ねぇ、ディオス」
「はい?」
移動の揺れで一々起きるほど繊細とは言い難い彼女は、今にも落ちてしまいそうになる瞼をなんとか押し留め、煩わしげに身を捩る。
自らの欲求には常に忠実である彼女らしからぬ行動だ。
「人間になりたかったら、そう言っても良いのよ?」
腕の中の温もりが完全に意識を手放すと、確かな重みだけが残される。
「僕が、人間に?」
嗚呼でもそれは、きっと許されないことなのでしょう。眠り姫の騎士は主の眠りを妨げぬよう、王子でさえも殺してしまいなさいと、命じたのは他ならぬ貴女。それを為し得るのはひとえに僕が人形であるからだ。主に貰った心と体と、主の剣で戦う僕は所詮「愚かな道化[オーギュスト]」。貴女の眠りは守れても、貴女を目覚めさせることなんてできない。
「そんなこと言わないで、ラヴィーネ・・・」
僕は傀儡、貴女の人形。どうかいらないなんて言わないで、眠り姫。
「僕はここにいたいんだ」
02.
薄暗い廊下を歩いていると、まるで世界にあたし独りしかいないような錯覚に捕らわれた。きっとどこかから聞こえてくるブラスの練習さえなければ、あたしは耐えられなくなってしまうだろう。――だからといって逃げられるわけでもないのに。
(曇ってる、なぁ・・)
空だけを映せる幸運な窓は、今日に限ってとても不幸な窓だった。厚く垂れ込めた灰色の雲が、あたしの気分を底なし沼へど引きずり込む。それでも、窓から目を逸らし誰もいない世界を見る気にはなれず、あたしは憂鬱な気分を加速させるように重い息を吐き出した。
(雨降りそう)
いつまで気付かない振りが出来るのだろう。
01.
「呪いのノート」って知ってる? 西棟2階の空き教室にあるんだって。普通のノートらしんだけど、中には生徒の名前とクラスがびっしり。でも変なんだよ? いくら卒業生に聞いても、その中に名前が書かれてる人は誰一人見つからないし、誰もその人がクラスメイトだったことを憶えてない。おかしいよね? もし最初からそんな人がいなかったのなら、誰が、何のためにノートに書いたの? ――だからそのノートは「呪いのノート」って呼ばれてる。名前を書かれた人は、消えちゃうんだって、跡形もなくそりゃあもうすっきりと。みんなの記憶からも学校の記録からも、戸籍とかもぜーんぶ消えて、最初からいなかったことになる。誰にも気付いてもらえない。絶対に、永遠に。ノートを開けば、名前くらいはわかるけどね。
ノートに名前を書かれて、消えちゃった生徒はノートに閉じ込められて、次にノートが使われるのをじっと待つ。新しく誰かが消されたらその人は解放されて、次の人がまた閉じ込められる。「呪いのノート」はそうやって、いつ解放されるのかわからない苦しみと、世界から忘れられてしまう哀しみを消された人に味わわせる為のノート。「ソウヒ」って人にありったけの憎しみと、苦しみと、怒りと、ほんの少しの哀しみを詰め込まれ、頼まれもしないのに、私たちが生まれるずっと前から生徒達の憎しみを晴らし、苦しみを和らげ、怒りを収めてきた。ある人にとっては優しく、ある人にとってはとても恐ろしい存在。
「呪いのノート」。私たちの通う学校の、七つ目の不思議。
「蒼燈!?」
夜空の悲鳴じみた声が思考の霧を払うまで、僕は何が起こったのか理解できないでいた。
「蒼燈、おい、大丈夫なのかっ?」
「うる、さいですよ・・」
「だが、」
唐突にこみ上げた不快感だけは覚えている。それから一度世界が途切れ、夜空の声と共にまた始まった。僕の体は冷たい床に転がっていて、不快感はまだ引かない。
「少し、黙っていてください」
胎児のように体を丸め縮こまっている様は、傍から見ればさぞ滑稽だろう。だが今の僕には、すぐ傍のソファーに這い上がることすら難しい。
神とほぼ同質であるはずの身体にあるまじき不調だ。八つ当たりに違いないが、今度会ったら暁羽に文句の一つも言ってやりたい。
(・・・まさか、)
哀しくもないのに涙が零れ、それが自分でも馬鹿らしいと思い、考えるやいなや捨ててしまった可能性を肯定しているかのようだった。
それは神と同質であるはずの身体が不調であるという事実を認識した直後の、気の迷いにも似た思考。真実であるはずもないが、完全に否定してしまえるほど僕は傲慢ではない。
「全く」
忘れているはずなのだ。僕は、もう何一つ憶えてはいない。
「これすら意図したことだとすれば、本気で恐ろしい人ですね」
「蒼燈・・?」
「出掛けますよ夜空。――言霊の姫巫女に会います」
漸く治まってきた不快感を無理矢理体の奥底へと追いやり、なんとか立ち上がると、――ぐらり――世界が揺れた。
「まだ無理だ」
そんなこと、誰よりも僕自身がよくわかっている。
「急ぐんですよこれが。・・・杞憂であればいいんですけどね」
誰も、誰かを解き放つ術など持たない。この国では。
なのに君は――無意識の内に、だろうが――僕に助けを求め、僕は君の――ひいてはこの国の――ために己が不調であることさえ誤魔化そうとしている。とんだお笑い種だ。
僕は僕たちが糧とした理由をもう忘れてしまっているのに、君は未だその理由に縋り生きているのだろう。誰の幸福も望まず、世界の平穏を疎ましく思い、ただひたすらに破滅を望む。
「解放されたと、思っていたんですけどね」
そんな君を哀れんでしまう僕すらも、君は憎んでしまうのでしょう。
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