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小噺専用
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 まるで月に憧れたかのように、

「・・・」

 その声は月夜に響き渡った。
 蹲っていた場所からよろよろと歩きだし、その足取りは歩くたび力強くなる。
 闇に紛れていた二つの影が身動ぎ、その後にゆっくりと続いた。

「見つけた・・」

 あの臭いを忘れはしない。
 この声を聞き違えはしない。

「私の餌」

 タンッと軽く地を蹴ればその体は簡単に宙を舞う。
 手近なビルの上に着地し、ルヴィアは迷う事無くまた跳んだ。










 ――狩りの時間だ。










「ぁ――」

 沢山の黒い服。暗闇に潜む銃口。
 近付いてはいけないよ? 彼等は貴女を傷つけるから。

「ルヴィア」

 踏み出そうとした足を阻止する為腰に回された手を見下ろし、ルヴィアは力なく目を閉じた。

「行くぞ」

 そのまま動く事を拒否したルヴィアを両手に抱くと、紫苑に促され柘榴は二機のヘリに背を向ける。

「米軍だよね」
「ああ」
「あー怖い、ロクな事がなさそうだ」

 肩をすくめ自分に続く柘榴と共に紫苑は路地裏に飛び込んだ。
 少しの間薄暗い道を進み、二人して無人の建物に入り込む。

「ルヴィアは?」
「ダメみたいだね、そろそろ絶食も限界だよ」
「・・・ああ」

 ぐったりと落とされた手が痛々しい。
 ルヴィアを抱いたまま壁を背に腰を下ろすと、明り取りの窓から差し込む月光に柘榴は息を吐いた。

「翼手の声が途切れ、そこには米軍」
「・・・それで?」

 窓の下の壁に寄りかかり紫苑は目を閉じる。

「ロクな事がなさそうだ」

 眠りはいらない。
 全ての刻を捧げたのだから。

「杞憂に終わるさ、ルヴィアは眠った。起きる頃には米軍は引き上げここには日常が戻ってる」
「日常?」
「そう、天敵の存在も知らずただ狩られることを待つ人間の日常が」

 腕の中のルヴィアを抱きなおし、柘榴もまた目を閉じた。

「俺達はルヴィアを守る。それだけだろ?」
「――ああ」

 深く暗い眠り。
 飢餓はいつも彼女を蝕んでやまない。
 ゆっくりと必要のない眠りに意識を沈めながら、柘榴はルヴィアを抱く腕に力を込めた。





 せめて、眠りの中では安らかに。
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「貴様が殺した」

 滅多に感情を荒げない男の静かな激昂に、誰もが頷く。

「理由などどうでもいい」

 むせ返るような殺気とクレイモアの切先を向けられ、床に座り込んだまま虚ろな瞳で虚空を見上げていたルヴィアは一度瞬いた。
 血に濡れた体から一滴、足元の血溜りに鮮血が滴る。

「シュバ・・ル、ツ?」
「死ね」
「「そうはさせない」」

 『Silver Rose』の剣が対峙した。
 シュバルツの前に立ちはだかり、柘榴と紫苑はそれぞれの剣を交差させる。

「邪魔をする気か」
「当然」
「俺達はルヴィアのシュバリエだ」

 死を望む主。

「愚かな」
「その言葉そのまま返す」
「お互い様」

 望まれた騎士。

「俺達はルヴィアを守る」
「この命にかえて」

 騎士を守る騎士。
 哀しみの黒。

「私、は――」

 血塗れた紅玉。
 アステリズムの現われたルビーレッドの義眼が、ゆっくりと細められた。

「ヴィヴィアンを生かすの」

 零された言葉にシュバルツは顔をしかめ口を開く。

「気がふれたか」
「・・そうかもしれない」

 ふらりとマリオネットのように立ち上がり、ルヴィアは足下の血溜りを見下ろした。
 真紅から、広がるにつれ赤へ。所々に散らばった肉塊。骨。転がされた頭部。

「いえ、狂ったのよ」

 腰を折り持ち上げた頭部を掲げ、ルヴィアはクスクスと声を上げて笑った。

「ルヴィア・・」
「どいて、柘榴。紫苑」

 四本目の『Silver Rose』を抜き放ち黒の騎士に向き直る。
 主の血を受け輝きを増したルビーレッドの義眼に、シュバルツは舌打ちした。

「これがヴィヴィアンの恐れた?目覚め?か」
「皮肉ね。封じようとしてきた彼女自身が目覚めさせた。そして」
「ッ――!」

 反射的に身を引いたシュバルツの喉をレイピアの切先がかすめ、鮮血が舞う。

「私はこの衝動を抑え込む術を知らない」
「?異端?の血か」
「違う。私は狂ってるの」

 体格で遥かに勝るシュバルツが力負けしていた。
 鞘ごと放り出された二本の短剣を拾い上げ、柘榴は剣を納め壁際に下がった紫苑に並ぶ。

「狂ってなんかないさ」

 優しい優しい紅玉の騎士。俺達の主。

「ああ」

 鋭い音と共にシュバルツのクレイモアは弾き飛び、その首にルヴィアが喰らいつく。

「おやすみなさい。とても忠実な黒の騎士」
「殺せると思う?」

 自分の隣で斜に構えたまま状況を見守る柘榴に一度視線を向け、紫苑はまた目の前の攻防へと向き直った

「どっちがだ」
「サフィアがルヴィアを、ルヴィアがサフィアを」
「無理だろうな」
「俺もそう思う」

 ルヴィアは血の繋がった弟を殺さない
 サフィアはルヴィアを殺すことができない

「ヴィヴィアンが関わらない限り、どちらも死なない」
「何かあるのか」
「別に?」

 考えの読めない笑みを浮かべ柘榴は肩に掛けたヴィオラケースを引き上げた
 紫苑は小さく息を吐きサフィアとルヴィアの攻防に背を向ける

「紫苑?」
「何かあったら呼べ」
「?何か?って?」

 クツクツとさも可笑しそうに柘榴は喉を鳴らした
 立ち止まりもう一度深く息を吐くと、紫苑はまた歩き出す

「さぁな」

 勝ち目のない戦い
 挑ませるは黒の騎士
 どう足掻こうと隠せぬ迷い
 裏切りの蒼に残されるは死

 裏切り者の騎士は――
「ヴィヴィアンは僕に自分が死んだらシュバルツに頼れって言ったんだ。別に頼らなくても生きていけるけど、する事ないから今は従ってる」

 片手でクルクルと抜き身のサーベルを回しながらサフィアは肩を竦めた

「そんな理由だけど、僕はシュバルツに従うと決めた」

 そして、しっかりと柄を握り締める

「決めたからには絶対服従。だから・・」

 その切先は、真っ直ぐにルヴィアへと向けられた

「僕はあんたを殺す」
消え失せてしまえばいい
ルヴィアを傷つけるもの全て
「生きてね。ずっとずっと、私の分まで」

 残されたのはたった一つとても残酷な願い。俺達も望む、だけど彼女以外誰にも叶えられない願い

「柘榴と紫苑のためにも。サフィアとシュバルツも、きっとそれを望むから」
「ヴィヴィアン・・」

 優しい嘘をつかないで

「そんな顔しないで? 私はずっと貴女の側にいるから」

 俺たちはルヴィアの生を望む

「ずっとずっと、ルヴィアの中にいるから」

 だけど望まない

「だから大丈夫」

 ルヴィアの生が

「私を殺して? ルヴィア」

 ヴィヴィアンの名に縛られることを

「ッ――」

 ?一緒に死んで?
 ヴィヴィアンがそう望めば、どんなによかっただろう
 共に死に、全てを温かい思い出と化すことを望めば――
「柘榴」

 そのはっきりと意思を滲ませた声を聞くのは久しぶりだと、視線を上げながら柘榴は唇の端を吊り上げた。

「私は生きたいの」

 恭しく腰を折り、持ち上げた手の甲に口付ける。

「どこまでも共に、My Lord」

 貴女のためなら何度でも傷を負おう。心を砕こう。貴女のためだけに。

「紫苑」
「この命尽きるまで」

 たとえ命が尽きようと。

「行くわよ」
「「御心のままに」」

 茨の道を進もうと。
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