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小噺専用
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ジブンガダレカモワカラナクナリソウナホドニ
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 ソコハフカイフカイヤミノナカデ

「ヴィヴィアン・・?」

 ドコマデモドコマデモフカイヤミガツヅイテイテ

「柘榴・・紫苑」

 ワタシノホカニハダレモイナクテ

「サフィア・・」

 ツメタクテ

「誰かいないの」

 サムクテ

「ねぇ・・誰か!!」

 クルイソウナホドココチヨカッタ
「――」

 近くで響く声を意識して思考から追い出すと、ヴィアは壁に寄りかかり目を閉じた
 足は投げ出したまま、手はコンクリートの上に落とし、できる限り外界を拒絶する

「これはお前のか」
「・・・・あ、うん」

 かけられた声には、反応できる程度に

「探そうと思ってた」
「穴の近くに落ちていた。大切なものなら気をつけろ」
「頑丈だから・・・ありがとう」

 受け取った鞄を起こした膝の上に置き、背を丸め縮こまるようにしてヴィアはまた目を閉じた

「すぐに迎えが来る。準備しておけ」
「私も、行くの?」
「そうだ」

 鞄の側面に施された銀の装飾がひんやりとヴィアの体温を奪う
 いつまでたっても温もらない、凍てついた美しさと例えられたそれが今はただ心地いい

「わかった・・」

 狩りをしていいのは月の出ている間だけ、月が沈む頃家に戻って、日が昇ったら動かない。動かないで
 でもそう言われた時から随分経つ今は夜も明るい。星の光はビルの明かりにかすみ人々は空を仰ごうともしない。なら、月が出ていようといまいと関係ないではないか

「来たぞ」
「・・・」

 でも、私は夜しか狩りをしない
「何者だ」
「・・誰」
「何者だと聞いている」

 髪から滴る鮮血を振り払いヴィアは空を仰いだ
 じっとりとした暑さが体を包み汗を誘う
 誰。なんて、それはヴィアが一番知りたい事だった

「私はそんな事教えてもらわなかった」
「翼手か」

 よく、しゅ

「違う。だって、翼手ってこれでしょ?」

 グチャッと足下の肉塊を踏み潰しながら問う

「こんな知性のない化物と一緒にされるのは、不快」

 建物の中にこもった血のにおいがまた強くなった
 明り取りの窓から差し込む月光にさらされ全身の鮮血が鈍く輝く
 足元の血溜まりに向けていた視線を上げ、ヴィアは目の前に立つ男に問うた

「貴方、誰?」

 影の中に立つ男は銃を構えたまま動かない
 人間――ヴィアにとって敵、あるいは餌――でないものは狩ってはいけないといわれた
 数ばかり多い人間を狩っては血を望む人間に狙われる。なによりも人間は食べられないから殺してはいけない。自分で食べる分だけを殺しなさい。でも――

「名乗る義務はない」

 人間は翼手になる

「そうだね」

 翼手になったら狩っていい。なってなければ狩ってはいけない
 小さく頷き、ヴィアは唇の血を拭った
 姿では分類する事はできないけど、人間の姿のときに狩ってはいけない。もし狩るとしても決して人に見られてはいけない。もし、見られた時は

「ねぇ、貴方は私を殺す?」

 羽織っていたコートを落としながらヴィアは月下を離れる
 銀色に光る銃がその動きを追い、伸ばされた指が引き金にかかった

「見られてはいけないと言われたの、絶対に。でも見られた時は見た人全員を殺しなさいと言われたの。でも、もうその言葉を守らなくてもいいから、貴方が私を傷つけないなら私は貴方を殺さない」
「・・・」
「私を傷つけないなら銃を下ろして? 下ろさないなら、私は貴方を殺すから」
 血にまみれた手を月に翳し、目を細める
 べったりと体中に付着した血に感じるはずの不快感は、もうずっと前になくしてしまった

 月が出ている間だけ、太陽が出る前に戻るの

 随分と長い間私にそう言い聞かされてきた、あの人は何年も前に動かなくなった

 私が唯一、?アレ?以外で手にかけた人

 本当はいけないことだとわかってる。でも、あの人は殺さなければならなかった
 私に戦いを強要する人。必要のないはずの物でしか生きられない体に私をした人
 大好きです。愛しています。だから永遠に私の中で私を怨み続けてください

「きれー・・」

 私が生きることが、貴方を生かすことだと信じています
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