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「ククッ、俺がお前の望みを叶えるとでも思っているのか?」
「・・・さぁ?」
「なら教えてやる。たとえ何があろうとありえないさ、決してな」
「そんな事言っていいの? 要で手酷く裏切るわよ」
「いいさ。お前なら」
「ねぇ、私の願い叶えてよ」
「嫌だ」
「・・・必要のない宝石は幾らでもくれるのに、一番欲しいものはくれないのね」
「俺に宝石は必要ない。だがお前は違う」
「大嫌い」
「それでもいいさ」

 唯一つ、貴方に殺されることを望んだ
 地位よりも、名誉よりも、永遠の命よりも
 唯一人、私の物にならなかった貴方に殺される事を願った
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「誰も君を責めないよ」

 その一言に心が悲鳴を上げた
 いっそお前のせいだと全ての罪を被せられたほうが楽だと思えるほどに
 誰も責めない。たった一人が被っていいものではないのだと、貴女はよくやったのだと肩を叩く


 心が酷く痛むんだ


 降りしきる雨にうたれ続けても流されることのない罪が
 体を細切れにされるよりも酷い痛みが
 押し寄せて、ひく事もなく蓄積する

「誰も君を責めないよ」

 ならいっそ殺して
「だって私に明日はないもの」

 そんな事言わないで、俺の大切なアリア
 全部俺が悪いんだ。だから明日がないのは多分俺
 君はちょっと目をはなした隙に俺の手をすり抜けた。河の対岸で、俺はただ君に迫るトラックを見ていた

「・・・大丈夫?」

 どんなに遠くても、君の流す鮮血が目に付いた
 広がる血溜り。駆け寄る人間。俺はただ呆然と立ちすくんでいただけ

「大丈夫」
「嘘ばっかり」

 君の手が、君の足が、傷ついたなんて耐えられない
 だから会いに行く事もせずただ蹲っていた
 でも――

「ちょっ・・」

 たとえどれだけ月日が流れても
 たとえ君が俺のこと忘れてしまっても

「走るから、つかまって」

 俺の罪は赦されない
「どこまで・・行くの?」

 ただ歩いていただけなのに、息が切れた

「怖い?」
「私は何も怖くない」

 私には何もない
 失うものがないのに、怖いものなんてありはしない

「・・・大丈夫?」

 呼吸が、つらい
 でも大丈夫と心が訴える
 まだ耐えられる。まだ、死んだりはしない

「大丈夫」
「嘘ばっか」
「ちょっ・・」

 腕を引かれ、そのまま抱き上げられた

「走るから、つかまって」
「でも、看護婦はそんなに・・」
「病院が騒いで、警察が動いて、ニュースになる前に隠れないといけないだろ?」

 薄暗い路地裏を駆け抜けていく

「・・・どうして?」

 なのに体は酷く揺れない

「どうして、私を手伝ってくれるの? さっき気付いたんだけど貴方へたすると犯罪者よ?」
「まぁ・・・成り行き?」
「変な人。ねぇ・・・」

 貴方誰?
 看護婦の悲鳴とともに慌ただしくなった病室の下を、悠々と通り過ぎた

「ちょっと早い、かな」

 予定通りなら、もう5分くらい私の不在に気付かないはずだったのに

「何が早いんだ?」
「・・・誰?」
「通りすがりのお兄さん」
「昨日もここにいたと思うけど?」
「あれ、知ってたんだ?」

 病室の窓から見える公園。いつもベンチに座ってた、男

「今日はどうしてベンチにいないの?」
「退屈だったから」
「いつもベンチでぼーっとしてたくせに」
「君も、病室の窓からぼーっと外を眺めてるよね」
「だって私には何もないもの。だから何もしないで空を眺めてるしか、他にないのよ」
「どうして?」

 病室の、騒ぎが収まった

「・・・ここじゃ見つかるかもね」
「失敗したら貴方のせい」
「それは困った」

 言葉とは裏腹に、楽しげな男は私の手を引いて歩き出す

「だって私に明日はないもの」
「ねぇ、看護婦さん」
「何?」

 その人は、よく笑いそして優しい

「あの人」

 私の些細な質問にも真摯に答えてくれる

「? ・・あの、ベンチに座ってる人?」
「そう、昨日もいた。一昨日も、その前も、この病室に来て私が覚えてる限りずっと」

 記憶の無い私が、少しでも寂しくないように

「そうなの? じゃあ、誰か待ってるのかも知れないわね」
「変質者、とかじゃなくて?」

 記憶の無い私が、少しでも記憶を取り戻すように

「変質者? どうしてそう思うの?」
「朝から晩までベンチに座ってぼーっとしてるから」

 カチッと耳元でボールペンの音がした

「いいんじゃない? 今のところ実害はないみたいだから」
「・・・ふぅん」

 でも退屈でしかたない
 たった一人で歩いていたのが、いけなかったのかもしれない
 もっとも、私にその時の記憶なんて無いのだけれど

「アリア・・」

 誰かがそう叫んだような気がする
 アリア。私が覚えている全て。私が忘れなかった、私に繋がる唯一の手掛り
 どうして人間に羽はないの。私の問いに、あの人は苦笑した

「――あの人?」

 また、だ
 まるで湧き水の様に溢れては、流されていく私の記憶
 何か掬うものがあればいいのだろうか、私の手ではいけないのだろうか

「私はアリア。私は・・」

 私は、誰だったのだろうか
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