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「はい、これどうぞ」

 そういって渡されたのは、茎の長い紅紫色鐘形の花が咲いた植物

「ってか、これ毒草だろ?」
「いいんですよ、これ先輩にそっくりだから」
「あっそ」

 俺は呆れを言葉とともに吐き出して、右手に持った植物を見やった
 たしかこれの中毒症状は、嘔吐・強い痙攣・呼吸麻痺だっけか?
 なんかと間違えて食べて、死んだ奴もいるんだっけ・・

―――ドンッ

「気ぃつけろよてめえ!!」
「・・・すいません」

 じゃあお詫びに、こんなものでもどうですか?
 俺は引きちぎった葉っぱと数輪の花を、勢い良くガラの悪そうな男の口に突っ込んだ
 苦しそうにそれを飲み込んだ男をしり目に、とっととその場を後にする

「俺みたい、ねぇ・・」






ジタリス――花言葉
<不誠実 虚偽>






 まあ別に、それでもいいけど
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 一人の少女が、道を歩く三人組の前に躍り出た。

「待ちなさい!!」
「・・・なんだ、貴様」

 長く、美しい銀髪をなびかせる美女を先頭に歩いていた三人組――ルシファーのメンバー――が、少女に行く手を遮られ立ち止まる。
 そして、銀髪の美女――イヴリース――の左後方を歩いていた蒼髪の青年――イスラフィール――が、立ちふさがった少女の姿を視界に入れ、さも機嫌を害されたように言葉を紡いだ。
 イスラフィールの右手は、立ち止まったときさり気なく右側に居る紅色の髪の少女を引き寄せている。
 紅髪の少女――ジブリール――は、その行動に眉を寄せ、仕方なさそうに溜息を吐いた。

「あなた達、自分達が何をしたか分かっているの!?」
「イスラ、お前今度は何をやったんだ?」
「お前にだけは言われたくない台詞だな」

 半狂乱に叫ぶ少女を見ても、ルシファーの面々はこれといった反応を示さない。
 ただ、先頭に立っていたイヴリースだけは、面白そうに口元を歪め、僅かに自分の左手を振り返った。
 視線を受けたイスラフィールは、不機嫌そうに目を細める。

「あんなにたくさんの人を殺しておいて、どうしてのこのこと私達の前に現れることができるのよ、あなた達は!!」

 今ひとつ緊張感に欠ける雰囲気の中で、少女が叫んだ。
 今までは周りで僅かにざわめいていたギャラリーの人々が、息を詰める。

「それが宿命であり、意思だからな」

 僅かに先ほどより低い声で、イヴリースが口を開いた。
 少女は、その言葉が僅かに孕んだ感情に、身を強張らせる。

「っ! この・・人殺し!!」
「否定はしないさ、確かに殺したからな」
「この町かから出て行ってよ! あなた達なんて!!」
「それで? そのあとこの町はどうするんだ?」
「!!」

 この町の住人であるギャラリーの中に、ざわめきが起こった。
 皆不安そうな面持ちで、ルシファー全員の顔色を伺っている。
 だが、そんなギャラリーの不安を気にも留めず、おとなしくイヴリースの後ろで立ち止まっていたジブリールが口を開いた。

「イヴ・・私は帰る」

 すると、イスラフィールが僅かに身長で劣るジブリールを見下ろし、肩をすくめる。

「ジブリールが帰るなら、俺も帰るぜ?」
「ああ・・私もすぐ行く」

――    ――

 イヴリースの言葉を待たずして、二人の姿は澄んだ金属音とともに大気に溶けた。
 ギャラリーはざわめき、イヴは少女へと歩み寄り、少女は恐怖のあまり動けずにいる。

「お前達を守るのが私の意志だ。だから私はたとえお前達がどう思おうと、これからも殺し続け、守り続ける」

 ギャラリーの人々が皆、はっとしたようにイヴリースに視線を向けた。
 イヴリースは、驚きに目を見開く少女の数歩前で立ち止まり、微笑む。

「すまなかったな。これからは町中をむやみに歩かないようにするよ」

――    ――

 イヴリースの姿が、大気に溶けた。










「また、心にも無いことを言ったものだな」
「〝何故?〟 なんて残酷なこと、町の人々が知る必要はないさ」
「真実・・か」
「私は罪の償いをしているんだ。だからこれでいい」
「・・そうだな」

 イヴリースが、言葉とともに脆く笑った。

「オリジナルが、来たらしい」
「また私達の様子を見にか? ご苦労なことだ」
「・・そうだな」

 彼女達とまったく同じ姿を持つ世界の柱。
 オリジナルの力の欠片であるルシファー達は、脆く美しい笑顔で・・笑う。
 刃が肉を切り裂く感触。
 飛び散った血が頬にかかる生温(なまぬる)さ。
 それすらも煩わしくなると、もう世界の全てが煩わしくなってしまう。
 なぜ煩わしいのかは覚えていない。
 ただ全てが面倒で、煩わしくて・・・・イライラする。

「仕事終わった」

 荒々しく扉を開けて、ソファーが汚れることも気にせずそこへ寝転んだ。

「おかえりなさい。お風呂入れるよ」

 部屋の奥から、組織から派遣された俺の見張り役が顔をのぞかせる。
 本当ならそんなことする必要もないのに、奴はここに来たときからずっと家事全般をこなしていた。

「・・わかった」

 頬について固まった血が鬱陶しい・・
 乱暴に頬を手のひらでこすると、見張り役が心配したように顔を覗き込んできた。

「怪我・・したの?」
「返り血だ」
「そう・・よかった」

 奴はそういって、まるで安心したかのように頬を緩ませる。
 否。奴は、本気で安堵したんだ・・

 嗚呼、イライラする。

 他人に深く関わらないことが絶対的なルールである組織において、こいつみたいな奴は早々に命を落とす。
 他人のために感情を動かすことなど、自殺行為に等しい・・

 嗚呼、イライラする。

 どうして奴は、俺が帰ってきたのを見て、あんなに嬉しそうな顔をするんだ・・・

 俺はただの、殺人鬼・・なのに
 きっちりと封をされたビンが、幾つも幾つも薬棚に並んでいた
 けれど、それは単に持ち主の趣味で、別段危険な薬品というわけではない
 たった、ひとつを除いては・・・

「先生、いい加減ビンの口テープで止めるのやめませんか?」
「う~ん、でもそれは単に趣味とか、癖だからねぇ」
「だから、やめるよう努力してください」
「うん、今度ね」

 二人の人間が、薬棚と棚の間でせわしなく動き回っていた
 いや、実際動き回っているのは15,6歳の少女だけで、もう一人の男は、白衣を肩にかけ少女にあれやこれやと指示を出しているだけなのだが・・

「あ、あと一番上のそれね。高価だから落とさないように」
「なら先生とってくださいよ~」
「大丈夫。地上三階から落としても割れないビンだから」
「先~生~?」
「ほらほら、急がないと間に合わないよ」
「・・・」

 さっきからからかわれている様に感じている少女は、自分が先生と呼ぶ男を睨み付けるが、男は気の抜けるような笑みでそれをかわす

「あ、あと一番奥の、上から二番目ね」
「はいはい」

 少女は疲れたように溜息をつき、薄暗い部屋の奥へと進む
 見えないので手探りでビンを探し、半ば適当に、それらしいビンを手に取った

「急げ~」
「今行きます!」

 持っていたかごにビンを放り込む
 ビンは甲高い音を立てるが、どうせ割れるようなものは無いのだ
 ガチャガチャを音を立てるかごに眉を顰め、少女は足早に、薬棚の並ぶ小部屋を後にする










「先生、これでいいですか?」
「ん? ちょっとまってね」

 少女がかごに入ってたビンを次々とテーブルに並べ、それを男が確認しつつ、作業の手順通りに並べてゆく
 けれど途中で、男の手が止まった

「僕、こんな薬頼んだっけ?」

 その手に持たれていたのは、他のビンとは違い、多めに埃を被り、紙テープで封をされた薬・・ケース
 外側の形は他のビンと変わりなく円筒形だが、硝子で作られたそれには、中にほんの数ミリ程度の液体と、小さなカプセルが入れられている
 そして紙テープの封は、危険物を示す赤色・・

「あ・・もしかして間違えてますか?」

 ビンを入れていたかごを片付けようとしていた少女が、首をかしげ立ち止まる
 男は、片手で硝子のケースを玩びながら、少女を見やった

「う~ん、僕が片付ける場所間違えてたんだと思う、多分」
「・・・?」
「だって、君そういうのだけは間違えたことないし」
「そ・・うですか?」
「うん。それに、前の助手が間違えたのかも」
「前って・・」
「けっこう前だね、うん」

 会話をしながらも、少女の視線は男の手の中にあるケースに釘付けになっていた
 くるくると回って、宙を飛んでは、男の手にキャッチされる
 曲芸ではないのだし、危険物なのだからやめてほしいというのが、少女の本音だ

「で、それなんですか?」

 けれど少女は、割れたら男のせいだと割り切って、好奇心半分で質問をする

「ずっと昔に作った、用途大量殺戮な薬」

―――ガタッ

 男の言葉に、少女が持っていた機材が床に落下した

「液体の方は、大気中に出ると霧散して・・多分一ヶ月くらいで、確実に世界中の生物を殺せるんじゃなかったかな?」

 今もなお、その危険な液体は男の手で数秒おきに宙を舞っている

「カプセルの方は、水に溶かすと何倍に薄めても効果が薄れず、しかも水蒸気になっても人が殺せる便利な薬」

 少女は、言葉が声にならないのか、口を何度も開いたり閉じたりしながら、数歩壁際に後退した

「でも、使った本人も死んじゃうから、結局いらないっていわれたんだよ。確か」

 せっかく作ったのになぁ・・

「そ、そんなもの普通に置かないでくださいよ・・」

 男の背後で、少女が心臓を抑えながら唸った

「だって、捨てるのもったいないじゃないか」

 懲りた風もない男が、少女に向かってケースを投げる

「ほら、パス」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

―――ガタンッ

 少女に少し手前に落下したケースの中の液体は、鮮やかな七色に輝いていた
「ただいま」
「おかえり、コーヒー飲む?」
「ん」

 太陽の光が木漏れ日の様に差し込む庭で、優雅な一時(ひととき)
 席に着いたばかりの女が、眩しそうに空を見上げた

「眩しい・・なんとかならないの?」
「もう少しだと思うけど・・」

 視線の先には、星の瞬く夜の闇にぽっかりと空いた穴
 そこからこぼれ出た陽光が、庭の敷地とその周辺の街を明るく照らしている

「まったく、夜に穴なんか開けてなに考えてんだか」

 椅子に浅く腰掛けて、女がぼやいた

「そうね」
「この書類、どこに置ますかぁ~?」
「そこに積んどいて」

 カリカリと、万年筆が紙をかく音
 それにあわせて、時折紙が移動する音
 そして最後に、カランと軽い音をたてて万年筆が転がった

「はぁ~・・午前の分終了!」
「おつかれさまでぇ~す」

 ゆっくりと、固まった体の筋を伸ばす男と、その横から程よく冷まされた紅茶を差し出す少女
 二人は柔らかい笑顔を交わし、その後声を立てて笑った

―――ぐにゃり

 机に向かっていた男の姿が、まるで粘土細工の様に歪む
 そしてその姿は、どんどん小さくなり、引き締まった体の黒猫へと転じた

『後は、本人にやらせろよ?』

 真っ白い室内にぽつんと、黒い生き物が声を発する

「はぁ~い!!」

 少女が発言をするときの様に手を挙げて返事をすると、猫は満足そうに笑い、いつの間にか開け放たれていた窓から外へと姿を消した
 残された少女は、楽しそうにスキップをしながら館の二階へと向かう

「ご主人様ぁ~? 猫さん帰っちゃいましたよぉ~」

 間延びした声が、二階の廊下に長々と響いた

―――キィィィィ

 それにともない、奥まった部屋の扉が軋みながら開く

「判った。そろそろ仕事するよ」

 純白の髪に灰色の服

 館の主人が、眠そうな眼を擦りながら現われた

 アルビノじみて白い髪が風に靡いた。



「おい、お前」



 一歩踏み出せはそこは空。見下ろせばあくまで穏やかに打ち付ける波。
 高さから言って、風が気まぐれを起こし体勢など崩してしまえばひとたまりもないだろう。――そして死体は上がらない。



「死ぬぞ」
「かもね」



 別段焦るでもなく、死の淵から自分を引き戻すでもなくただ言葉をかけてくる声の主を見ようともせず――見る意思すらないのだと――、冬星は目を閉じた。



「君は誰?」
「お前こそ誰だ」
「僕は冬星」



 嗚呼、唯我独尊な物言いが彼女にそっくりだ。――でも不思議と、〝彼女〟が誰かは思い出せない。



「でも、もう消えるみたいだ」



 憶えていることが少しずつ減っていく。



「知りたくはないのか」
「何を?」
「抗おうとはしないのか」
「どうやって?」



 後少しもしない内に、僕はきっと真っ白になる。





「僕には何の力もないのに」





 真っ白になって、そして、



「誓えるか?」



 そして――



「俺にその体を捧げ共に在る事を、未来永劫」
「・・・」



 その場でクルリと海へ背を向け、冬星は漸く自分に声をかけた酔狂な人の顔を見た。



「貴方、誰?」



 嗚呼、なんて無意味な問い。



「―――――」



 聞いたところで、僕はすぐ忘れてしまうのに。






























「魔法の呪文」



 誰にともない呟きを耳に留め、暁羽は構内のまばらな人通りから隣の冬星へと視線を移した。



「って、何だろう」
「・・・」



 続く言葉に軽く息を吐きながら立ち上がる。



「じゃぁね」
「うん、バイバイ姐[ネエ]さん」



 気も漫ろな様子で手を振り、一人になった冬星は一人で考えた。
 魔法の呪文魔法の呪文魔法の呪文・・・なんだろう、思いつかないし思い出せそうもない。





「―――――」










 ふわり。





 いつの間にか冬星の隣には一人の男が座っていた。
 長い黒髪を高く結い上げた男。多分、この広い学園内で同じベンチに隣り合わせるほどの仲ではないと思う。・・というかこんな男知らない。



「何だよ、魔法の呪文って」
「さぁ?」



 不貞腐れきった男の言葉にあからさまな白々しさの滲む笑いを返し、冬星はポケットからストラップのついた携帯端末を取り出した。
 慣れた動作でコールを押せば数度の呼び出し音。それもすぐに途切れる。



<――何>
「あ、姐さん?」
<何>





「魔法の呪文、思い出したよ」





<そう>
「うん、それだけ。じゃね」
<うん>



 ついさっきまで隣にいた暁羽は、冬星の予想通り「魔法の呪文」について何も聞こうとはしなかった。
 冬星にだってわかってる。暁羽は「言葉」に関してはこの国一の使い手である「言霊の華月」の姫巫女で、時には巫女以上の力を行使することが出来る。そういう人だってことくらい。
 だけど、この場合「魔法」というのはそういう物ではなく故に、暁羽は何も言わない。



「ありがと」



 途切れてしまった繋がりに小さく礼を述べ冬星は携帯端末を仕舞った。
 男はただじっと冬星の動きを見ている。飽きもせず、ずっと。



「使って欲しい?」



 僕の大事な魔法の呪文。
 誰にともない言葉を向けられたのは風を纏った男。



「勝手にしろ」



 自分の方を見ようともしない冬星に伸ばしかけた手を下ろし、男は立ち上がった。
 風が駆け抜ける。



「うん、そうするよ」



 ただ一人、ベンチに腰を下ろしていた冬星はのんびりと立ち上がり家への帰路に付いた。






























『風王、須佐』



 それは全てがリセットされたあの日、一番最初に僕を僕たらしめた、魔法の呪文。









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