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「保護者は?」
「書類上いるけど保護はされてない」
「まぁ、いらねぇだろうな」
「わかってるなら聞かないでよ」
「いいじゃねぇか」


「…あ、」
「なんだ?」
「噂なんてするから電話かかってきた」
「保護者か」


「もしもし?」
〈やぁ、元気?〉
「うんまぁ」
〈恭弥君も?〉
「凄く」
〈ならよかった〉
「何か用なの?」
〈ん? んー…まぁ用といったら用かな。ちょっと確認したい事があってね〉
「なに?」
〈最近物騒すぎない?〉
「そんなの今更」
〈まぁそうなんだけどね〉
「状況は把握出来てるけどそれだけじゃ不満?」
〈いや、君が大丈夫だと思ってるのならそれで構わないよ〉
「これまで通り?」
〈うん。これまで通り、並盛は君達の好きにしていい。ただし手が必要ならすぐに言いなさい〉
「…あぁ、なんだ。心配してくれてたの」
〈多少ね〉
「多少?」
〈君に任せておけば大丈夫だって分かってるよ。本当はね、少し声を聞きたくなったんだ〉
「殊勝なこと」
〈たまにはこっちに顔をお出しよ〉
「気が向いたらね」


「イツキ」
「恭弥?」
「出して」
「帰るの?」
「草壁から連絡があった」
「あぁ、そう」
「そっちは誰」
「電話? あの人」
「なんて」
「たまには顔見せに来いって」
「ふぅん」
「声が浮かれてたから酔った勢いでかけてきたんだと思う」
「あの人らしいね」
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「イツキ」

 伸ばされた手に応えると、恭弥はストンと意識を手放した。力の抜けた体を抱き抱えると逃がすまいとでもするよう腕が回され、嗚呼これじゃあ動けないじゃないかと私は苦笑する。

「恭弥はイツキにべったりだな」
「たった二人っきりの姉弟だもの」
「…両親は?」
「死んだ」

 私が殺した。

「冗談にしては…」
「本当よ」
「…いつ」
「三歳の時。だってあの人達離婚して私達のこと別々に引き取るなんて言うんだもの」
「恭弥は知ってんのか」
「言ったら貴方を殺す。邪魔する部下も皆ね」
「お前は…」
「無理だと思う? ためしてみる? 私は別にいいけど貴方が死ぬのが一番最後な事だけは覚えておいてね」



「イツキには黙ってるよう言われたが、恭弥。お前には知る権利があると思うから話しておきたい」
「イツキが両親を殺した話なら知ってる」
「なっ…」
「…それとも別の話だった?」
「知ってたのか…」
「イツキが僕の行動を把握してるのと同じ事さ。僕だって彼女が何をしてるかくらい知ってる。分かったならさっさとやろうよ。イツキが戻ってくるまでに少しは動いておかないと怪しまれる」
「恭弥、お前はっ」
「こう見えて必死なんだ」


「僕が強くないとイツキが無茶をする」

「飼うの?」
「へ?」
「その猫」
「なんでそんなこと聞くの?」
「君に懐く動物なんて初めて見たから」
「あー…」
「飼えばいいのに」



「どう? 似合う?」
「いいんじゃない」
「じゃあ出発」


「群れてる」
「パーティーだし」
「沢田は?」
「挨拶回り中」


「おや、珍しいですね雲雀恭弥。貴方はこのような場所を好まないものと思っていましたが」
「私が無理矢理連れてきたの」
「でしょうね。――ドレス姿は初めて見ましたが、スーツよりよほど似合いますよ」
「ありがとう」

 不慮の事故で十年バズーカにあたった。

「…わぉ」

 火薬の臭いを伴わない煙が晴れるとそこは十年後の世界。視界がクリアになると同時にそれを実感させられた。

「馬鹿だね、あたったの?」
「うっかり叩き落としちゃったのよ…」

 十年後の恭弥が目の前にいて、笑っている。それだけで眩暈がしそうなほど幸福だった。


----


「風紀が乱れてる…」
「まだ何もしてないよ」
「ちょっ…」
「十年前の君ってこんなに可愛かったっけ」
「かわっ…」
「顔、まっかだよ」



「結婚、したの…」
「五年くらい前にね」
「二十歳で?」
「そう」
「恭弥が指輪してるなんて意外」
「結構気に入ってるんだ」
「そう…なんだ」
「聞かないんだ」
「誰と結婚したか?」
「うん」
「元の時代に帰ったら相手殺しちゃいそうだから聞かない方がいいと思う」
「ふぅん」



「今日はね、結婚記念日なんだ」
「へー…」
「だからって特別何かするわけじゃない。二人でホテルに閉じこもってだらだらしてるだけ」
「……」
「まだわからない?」
「なに、が?」
「君だよ」
「へ?」
「僕の結婚相手」
「だって私達、」
「戸籍上僕の双子の姉は五年前に死んでるんだ。そして僕はほぼ同時期にどこの馬の骨ともしれないイツキと結婚した」
「……うそ、」
「本当だよ。だいたい君が四六時中張り付いてるのに他の女が僕に近付ける訳ないだろ」
「それはそうだけど……え…えぇー…」
「嬉しいなら素直に嬉しがりなよ」
「正直複雑」
「どうして?」
「私がしたがったの? 結婚」
「酔った勢いでね」
「それで恭弥頷いちゃったの!?」
「酔った勢いでね」
「あ、あぁー…ごめん」
「別に」

 骨が折れない限り足は体を前へと運ぶし、千切れない限り両手は武器を握れる。だから恭弥は生きている限り戦う事をやめない。やめる事が出来ない。

「おいボス、いきなりやりすぎたんじゃねぇか?」

 例外があるとすれば、致命傷を受ける前に体力が尽きた時だ。

「そうは言うけどな、ロマーリオ。こいつとんだじゃじゃ馬だぜ」
「嬢ちゃんほどじゃねーだろ」
「…まぁな」

 見事にぶっ倒れた恭弥の頬をぺちぺち叩いて、反応がない事を確かめてから引き起こす。そのままさてどうしたものかと思案していると、《跳ね馬》が手を出してきたから猫をけしかけてやった。

「うおっ」

 やっぱりこのまま運ぶとビジュアル的におかしいかな。

「気をつけろよー、ボス。その猫凶暴らしいぜ」
「おせーよ!」

 恭弥を抱えて帰るくらい、別段出来ない事はない。私だって恭弥と同じくらいには馬鹿力だ。幾らか劣る体力面は気力でカバー出来る。というか、してみせる。ただそうすると後で恭弥の機嫌が悪くなりそうで怖い。
 男の子だからね。

「ん…?」

 あれこれ考えているうちに恭弥の手が動いた。意識はまだ戻っていない。にも関わらず投げ出されていた両手はしっかりと私の背中に回され、正面からお互いに抱きあうような体勢に落ち着く。
 理解は一瞬遅れてやってきた。

「…しまった」

 これじゃあ動けない。

「きょうやぁ…」

 そりゃあないよと嘆いてみても反応はない。完全にお休みモードだ。こうなると自力で動けるようになるまでは梃子でも動かないのが恭弥の常。その代わり周囲に対する警戒を私に任せっきりにしているから一人の時より回復が早い。
 あからさまに信用しているという態度が嬉しくないわけはないけど、今そうされるのはちょっと複雑。

「仲良いなーお前ら」
「煩い」

 どうやって帰れと。



----



 どうするも何もどうしようもないから結局そのまま恭弥が起きるのを待つ事にした。《跳ね馬》はこのまま放ってはおけないだの師匠としての責任がどうだの煩かったけど、目が覚めた恭弥が《跳ね馬》を見て当然起こすだろうアクションについて嫌味っぽく説明してやったらぶつくさ言いながらも部下と帰っていった。御丁寧に置いていかれた連絡先は、仕方なくハーフボンゴレリングと一緒にしている。

「恭弥」

 たっぷり時間をおいて、さすがにこれ以上ここにいるのはまずいだろうという時間になってから私はようやく恭弥を起こしにかかった。名前を呼んで背中を叩いて、縋るように体を揺らす。いい加減家に帰るくらいの体力は戻っているだろうからと、ぐずるよう首筋へ顔を押し付けられても絆されたりはしない。

「恭弥」
「ん…」

 家に帰ったらそのままベッドに直行して朝までぐっすりでも構わないから、とりあえず今は起きて欲しい。

「恭弥、起きて」
「……なに…」

 背中へ回されていた腕にさも不機嫌そうな力が込められて、あぁよかったと肩が落ちた。

「もう帰ろうよ」
「あの外人は…」
「明日も来るって」
「そう」



(そこに安眠はある/姉と弟。べったり)
その1

「ねぇ、君はくれないの?」
「何を?」
「チョコ」
「欲しいの?」
「欲しいって言ったら?」
「…今から作る」
「じゃあ欲しい」
「……買い物いってきまーす…」
「いってらっしゃい」



その2

「何作ってるの」
「チョコレート」
「珍しいね」
「明日バレンタインだから」
「あげるような知り合いもいないくせに」
「勿論自分用だから恭弥にもあげない」
「……」
「味見する?」
「…する」


----


その1

「明日はホワイトデーなので買い物に行きます」
「意味がわからない」
「バレンタインにチョコあげたでしょー? だからお返しに付き合って」
「何買わせる気?」
「何も! 一緒に行ってくれるだけでいいから」
「……仕方ないな…」
「やった!」



その2

「はい」
「…なぁに? これ」
「分からないのならそれでもいいけど、とりあえず受け取りなよ」
「……あ、ホワイトデー?」
「遅い」
「ありがとー。でもまさかお返しくれるとは思ってなかった」
「よく言うよ。これみよがしに要求してたじゃないか」
「だって欲しかったんだもん」


----


おまけ

「なぁデクス、冷蔵庫に入れてたチョコ知らないか?」
「知りません。…あぁでも、さっき犬が血相変えて出ていきましたからそれかもしれませんね」
「それは残念だ。食べて何分で症状が出るか計りたかったのに」
「今度は何を混ぜたんです?」
「お前に言ったら意味が無いだろう」
「知らなくても貴女から貰った物なんて食べませんよ」
「なんだそれ酷くないか」
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