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小噺専用
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 シーリンが私を呼んで、私に笑いかける。――たったそれだけの事で呪いは解ける。《魔王》ラスティールはただのラスに戻って、他の何者でもなくなる。シーリンだけが、純粋に「私」という存在を肯定してくれるから。シーリンの側でなら、私は私でいられた。

「随分と、幸せそうに笑うんですね」
「…そう?」

 表情か緩んでいるという自覚はあったから、レイの言葉を否定はしなかった。肯定もしないのは、それが《魔王》ラスティールとして正しい反応だからだ。

「貴女がそんな風に笑う所を、初めて見ました」
「そう」

 レイに魔王としての笑顔を向けるのは容易い。それが難しいのはシーリンと向かい合った時だけだ。だからたとえ側にいても目を合わせさえしなければ、問題無く体裁を取り繕う事が出来る。

「幸せ、なんですか」
「だって、可愛いじゃない。あの子」

 《聖女》ラスティールと出会う前の《魔王》ラスは死んだ。――それが周囲の共通認識。ならわざわざ改めてやる必要はない。

「らーすっ」
「なぁに? シーリン」
「だっこ!」

 精一杯手を伸ばして見上げてくるシーリンを抱き上げて、抱きしめて、柔らかい髪をそっと梳く。くすぐったそうに笑ったシーリンはじゃれるようにすり寄ってきた。――嗚呼、可愛い。

「親馬鹿ですね」
「別に、うちの子が世界で一番だなんて言う気はないわよ? この子の可愛さは私だけが知っていればいいの」
「……そうですか」
「そうなのよ」

 レイは付き合いきれないと言わんばかりにこれ見よがしの溜息をついて部屋を出ていった。シーリンはそちらへ見向きもしない。この子はいつだってそうだ。

「シーリン、シーリン。早く大きくおなり」

 私だけを見て私だけを呼んで私だけを求める。周囲がどんなに世話を焼こうと、結局私以外の誰にも懐かなかった。私のシーリン。
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