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「この部屋の匂い、好き」
「なにそれ」

 クローゼットの扉はたてつけが悪い

「愛の告白?」

 小柄なこいつでも着れそうな物を見繕って、あたしはそれをテーブルの上に放る

「そうかも」
「へ?」

 入り口の扉のたてつけも悪い

「大好きです」

 唯一の例外は海の見える広い窓

「だから、私の全てを許してください」
「ちょっ・・」

 そして

「どういうつもり!?」

 そいつはそこから飛んだ
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「あら、どうしてだめなの?」

 可愛らしく首を傾げる少女は、けれど禍々しい。
 仕掛けられた攻撃を軌跡を纏った左手で弾き、ミゥはふらつく足を叱咤した。

「力を遮断されると肉体を保つ事も危ういのね。――なんて脆い」

 苦労して取り寄せた甲斐があったわ。

「なんのつもりだ・・」
「そんな声出したって無駄よ? 全然怖くないんだから」

 少女の足下に?落ちた?黒猫はピクリとも動かない。
 その首筋に埋め込まれ脈打つ種子にミゥは見覚えがあった。確か――

「キィラ」

 そう、キィラ。悪魔の体に寄生しその力を糧として育つ植物。
 餌にされた悪魔は例外なく力の全てを栄養として吸収され髪一筋さえ残らない。・・文献にはそう記されていた。

「さぁ、どうする? この猫ちゃんから種子を切り離してみる?」
「・・・」
「?風よ、力なき使い手を切り裂け?」
「ッ――」
「な、に・・やってんだよ!」
「チナっ」
「そんな奴ぶっ飛ばせるだろ!?」

 足がふらつく。焦点が定まらない。

「最悪だな・・」
「おしまいよ」

 まだ家族で旅をしているころの俺と同じ顔、声で、そいつは俺を嘲笑った。

 ――まだだ

「今度は?炎よ?」
「・・・お前の力は届かない」

 そう、あのころと同じ。

「まさかっ・・」
「お前にこの力は使えない」

 でも、一つだけ違う。

「風よ切り裂け、千々にだ」
「――ッ!」

 たとえどんな姿をしていても、お前は俺じゃない。

「そんな、言霊でもないのに・・」
「エレメントは俺の声に耳を傾けてる」
「貴女に命令される事を待っているですって? 気位の高い精霊達が」
「そうさ。・・目障りだ、消えろ」
「っ」

 エレメンタルマスターとして生まれたのは、俺。

「・・・燃やしてくれ、傷つけないように」

 黒猫の首筋に小さな炎が灯り、そこに寄生するキィラを焼き尽くした。
 ゆっくりと力ない体を抱き上げミゥは息を吐く。

「ミゥ・・・」
「大丈夫。っていうか、お前ら今日のこと忘れろ。眠れ」

 もうここが屋外だとかこいつらここに転がしておくわけにはいかないとか、関係ない。

「ルシフェル?」

 言葉にして「起きろ」というのは躊躇われた。
 力を込めなくてもきっと今俺の言葉はどんな言霊よりも強力な力を持っている。

「ルシフェル・・・」

 お願いだから目を開けて、あのときの様に私を一人にしないで。

「随分と信用がないな」
「っ・・」
「泣くのか?」

 お前が。

「・・・まさか」
「私が施した封印がガタガタだ。・・いいぞ」

 かけなおされた封印に肩の力を抜く。
 あの力は危険だ。俺の体がずっと持っていたあの力は、一瞬で全てを破壊する。

「苦しかったか?」
「何、心配してんの?」

 お前が。

「ああ」
「・・・大丈夫だよ。俺は死ななきゃ大丈夫」
「そうか」

 すっ、と伸ばされた腕の先で転がってたチナたちが消える。
 またいつもと同じ黒猫の姿に戻り、ルシフェルは俺の肩に飛び乗った。

「よし、戻って寝るか」

 疲れたし。

「にゃー」

 失わなければどうでもいい。
「ッ――」

 滴る鮮血に顔を顰め傷ついた腕を見下ろした。
 溢れ出る血は止まらない。止める事が出来ない。

「大丈夫?」

 慌てるでもなく近付いてきた柘榴はそっとルヴィアの腕を取り、そこに刺さった硝子の欠片をつまみ出した。

「深いね」
「クラクラする・・」

 粘り気のない血が床に落ち血溜りを作る。
 気だるそうに目を閉じたルヴィアを抱き上げ柘榴は手近なソファーに移動した。

「・・・」

 血が点々と跡を作り移動した痕跡を刻む。
 もったいない。そう呟いたルヴィアを上目遣いに見上げ柘榴はそっと傷口に口付けた。
 ゆっくりとなぞるように舐め上げその血で喉を潤す。
 何度も何度も同じ動作を繰り返し、目を閉じたルヴィアの頬を軽く叩いた。

「塞いで」
「ん・・」

 じわじわと傷口が小さくなっていく事を確認してから周囲の血を拭う。
 左目だけを薄っすらと開たルヴィアは柘榴の上着を掴んだ。

「クラクラする・・」
「大丈夫?」

 血濡れた手を頬に添える事はせず柘榴はソファーの下に腰を下ろす。
 視界の外で繋がれた手に安堵した。

「ごめんね?」
「もういいの?」
「もう我慢できない」

 背後から首に手を回しするりとソファーを滑り降りる。
 目の前に来た首筋にルヴィアは躊躇わず喰らいついた。

 ――苦しいの

 横抱きにした体を抱きしめる腕に力をこめる。それは柘榴だけに許された特権。

 ――何が?
 ――わからない

 稀に体が柘榴の血ですら拒絶する。
 周囲の気配に疎くなり、身体能力は落ち、まるで・・

 ――でももう大丈夫
 ――そう

 まるで人間にでもなった気分。
 血濡れた唇で柘榴に口付けルヴィアはまた短い眠りに落ちた。

「おやすみ、ルヴィア」
 両手に抱えた薔薇が枯れていく様を無感動に見つめルヴィアはただ立ち尽くす。

「足り・・ない」

 一抱えの薔薇程度で満たされるはずもなかった。

「ヴィヴィアン・・」

 今まで口にしたどんな血よりも甘いその血が、
 今まで口にしたどんな血よりも赤いその血が、
 私を蝕んで止まない。飢餓を加速させ体の中で暴れまわる。

 ――ルヴィア

「ざ、くろ・・」

 砕けた膝を支えるよう腰に腕が回った。
 そのまま軽々と抱き上げられ、ルヴィアは顔を上げる。

 ――つらい?
 ――これ以上辛い事なんてあるはずもないのにね
「汝が佇む深き闇の淵より死を招け、――深淵」

 音もなく波打つ闇がゼロの手にゆっくりと絡まった
 明らかに意思を持った闇を従えゼロは口を開く

「行け」

 発せられたのはいつもと同じ、大切な物が欠落した言葉
 けれど彼女の手に絡みつく闇はそれだけで十分と言わんばかりに飛翔した
 高く宙を舞い、ふらりと立ち上がったセカンドに飛びかかる

「・・・」

 ニヤリ、セカンドの唇が歪められた
 その手に握られた椿姫がカチャッと音を立てる

「狩りなさい、椿姫」

 伸びた柄、湾曲する刃

「深淵」

 セカンドが腰を落とし構えたのは死神鎌。ゼロは闇の絡む手を上げた

「そして染まるのよ」

 降り注ぐ闇を紅に染まった刃で蹴散らしセカンドは低く地を蹴った
 腰に帯刀した紅蓮を抜刀しゼロは片手の闇を振り払う

「卍解・・」
「椿姫は頂くわ、御姉様」
「・・・あげない」
「いつからそんなに欲張りになったの? 昔は何でも私にくれたのに」


「狂ったセカンドには・・あげられない」


「おかしいのは御姉様よ。元々椿姫は私の物なのに」
「・・・灼熱を呼べ、紅蓮」

 唸る炎さえ蹴散らしセカンドはゼロに斬りかかる
 地面で蠢く闇にちらりと視線をやり、ゼロはセカンドをひきつけるように背後に跳んだ

「深淵も私に下さる? 御姉様」
「何も貴女にはあげない」

 身の丈を越える椿姫を振り回すセカンドはその顔に悦び以外の感情を浮かべない
 それがヤクモの言う?失敗?。けれど、ゼロからすればセカンドは出来の悪い妹に過ぎない
 だから・・

「深淵」

 全てを姉として終わらせるのだ
「大丈夫?」

 頬に添えられた手の冷たさに目を細めた。
 大丈夫。喉の痛みを我慢して、白濁としかけた意識を手繰り寄せる。

「熱がある」
「そう?」

 でも大丈夫だから。

「無理に動かないほうがいいよ」

 まだ足音は聞こえない。走り出すのは聞こえてからでも十分間に合う。
 君の体よりも大切なものなんてないんだから。

「駄目。行かなきゃ」
「駄目だよ」

 足音が聞こえてからでは遅い。
 貴方を逃がすことが一番大切なんだから。

「捕まってもまた蹴散らせばいい」

 僕達にはその力がある。

「貴方に傷一つつける訳にはいかない」

 その力を雑魚の血で穢すことも許されない。

「死なないで」「死なせない」

 どうして逃げなければならないのだろうか。
「で、お前は誰だよ」

 異世界へと旅立つ直前現われさも当然の様に旅に同行する女。
 向けられたあからさまに不審がっている視線をさすがに無視することはせず、開け放った窓に腰掛け外を眺めていたイヴは室内を顧みた。

「僕?」

 僕は・・

「ウィッチクイーン」

 イヴが再び口を開くより早く、モコナを膝に乗せたままファイが口を開く。
 イヴはどこか楽しむような色を瞳に乗せ、クロガネはファイに向き直り必然的にイヴから顔を背けた。

「なんだそりゃ」
「ウィッチクイーン。死竜狩りの女。皇竜の継。フハイの王。――全部僕の呼び名だよ。でも君達に呼ばれるなら?イヴ?の方がいいな」

 すらすらと流れ出る異名にクロガネは顔を顰める。
 他にも色々呼ばれてはいるらしいんだけどね。小さく付け足すように呟いて、イヴはまた窓の外に視線を戻した。

「ちなみにフルネームで言うとイヴ・リース。リースって呼ばれるのはあんまり好きじゃない」
「・・よく喋るやつだな」
「そうかな? まぁこういう時じゃないと話すこともないだろうしね」
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