「デリット、おいで――」
翳した手の中へ違わず現れ、十字架を模したペンダントは人殺しの剣へと転じる。
「死ね」
背後からの一撃。
致命的となるはずの一閃は、何故か手応えなくするりと敵の体をすり抜けた。
「あり?」
「おいおい、なんであんたまで生きてんだ…」
「ティア!?」
地面へ深々とめり込んだ剣は置き去りに、まず距離を取って。それから絡めた鎖を手繰る。
「おかしいな…」
はてさて首を傾げると、説明はご親切にも背後から。そいつは触れるものを選択することができるんです、と。
そういえばそういう風に殺されたような気がしないでもない。
「あんた、ティア・グランドか?」
「カインだよ。ティアはお前が殺したでしょ」
「だよなぁ…」
どうしたものか。
「アレン、あれはどうやったら殺せるの?」
「状況見ろよ。ちんたらしてると箱舟の崩壊に巻き込まれるぜ」
「だから?」
無造作に振り抜いたデリットの生む剣気は建物を割った。
けれどやはり、私を殺したノアには傷一つつかない。
「むぅ…」
くやしい。
「カイン・ノドが命じる――」
砕けろ。
「うおっ!?」
負け惜しみの腹いせ。
足場どころか街そのものを破壊し尽くす勢いで力を揮い剣を収める。
「もういらない」
ペンダントを投げつけると、神田は案外あっさりそれを受け取った。
「てめぇどっから現れやがった」
「心配で様子見に着てあげたのよ。でも、あの男の姿見たらついカッとなっちゃって」
「答になってねぇ」
「魔法」
「馬鹿にしてんのか」
「えぇー…」
本当なのにと、軽薄に笑って姿を掻き消す。
「元帥たちの方、手伝ってくる」
そう、気安い声だけ軽く残して。
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緩やかな上昇を経て、覚醒。
満ち足りた闇の中、垣間見た月は鋭く目を焼いた。
「――ティア」
身じろげば――ジャラリ――重く尾を引く鎖。冷たい手触りをなぞって嘆息。
「私を呼んだ、あなたはだぁれ?」
ゆらゆらと頼りない月光が周囲を照らしていた。
「ティア・グランド」
「はぁい」
声のする方を見ても、そこには闇があるばかり。ほんの隙間から差し込む月光は僅かだった。むしろそのせいで闇が濃くなっている。
「目覚めてしまいましたネ」
「そんなつもりはなかったのに」
「這い上がってくるのですカ?」
「こんなにも雁字搦めなのに」
ティアは歌うように笑った。クスクスと、おかしそうに自分を地面へと縫い付ける鎖を持ち上げては落とす。
「嗚呼、私はなんで目覚めてしまったのでしょう」
応える者はなく、紫水晶色の鎖だけが彼女の傍にいた。
噛み締めた唇から錆びた味が流れ、――それでも――動かない体を忌々しく思う心と、――彼の、誇りをを守るために――動くまいと体を地面に縫い付けた心が正面から衝突した。――胸が張り裂けそうだ――。
「神田・・」
世界が崩壊する。
私は何も出来ずただ見ているばかりで、――伸ばす事の出来る手が今ここにあるのに――どうしたらいい? 私はここにいるのに、これじゃあ――いないも同じだ。
「――――」
世界に楽しいことはありますか。
生きることは楽しいですか。
死の向こうには何かありますか。
それは楽しいことですか。
過去の私は何も知らなかった。だから、今ここに私がいてそして――
「ど、して・・っ」
彼は死んだ。
世界に楽しいことはたくさんあります。
生きることはとても素晴らしいことです。
でも死の向こうには何もありません。
世界が混沌に、呑まれてしまうのです。
「・・・・・せんねん、こう」
だから忌子[イミゴ]はいいました。
「私が必要?」
漸く、貴方のシナリオ通りになるね。
怨むべくは無知なる己。憎むべきは蝕みし神[イノセンス]。
「ははっ・・」
世界など滅んでしまえ。
戦う事に理由が必要ですか?
生きる事に理由が必要ですか?
生まれた事に理由が必要ですか?
生き続ける事に理由が必要ですか?
死ぬ事に理由が必要ですか?
死を恐れない事に理由が必要ですか?
私は楽しければどうでもいい。
理由なんて要らない。
理由なんて必要ない。
死の向こうに楽しい事があるのなら私は死んでも構わない。
生きていたらもっと楽しい事があるかもしれないからただ生きている。
生き続けたらつまらないことも楽しいと思えるかもしれないからとりあえず生き続ける。
戦うことはとりあえず楽しい。
全てに理由が必要ですか?
生きる事に理由が必要ですか?
生まれた事に理由が必要ですか?
生き続ける事に理由が必要ですか?
死ぬ事に理由が必要ですか?
死を恐れない事に理由が必要ですか?
私は楽しければどうでもいい。
理由なんて要らない。
理由なんて必要ない。
死の向こうに楽しい事があるのなら私は死んでも構わない。
生きていたらもっと楽しい事があるかもしれないからただ生きている。
生き続けたらつまらないことも楽しいと思えるかもしれないからとりあえず生き続ける。
戦うことはとりあえず楽しい。
全てに理由が必要ですか?
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