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「Bye」

それが君の口癖

「さ、次の街に行きましょ」

僕はいつも君の隣を歩く
前だけを見つめ、絶対に振り向くなんて事はしない

「邪魔よ」

ザシュッ

「アハハハハ!」

君の背後はいつも地獄絵図

「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「そ」

生きている他人が許せない
のうのうと呼吸する人間が許せない
彼等を殺す権利が自分達にはある。君はそう高々と笑う

「ど・う・し・た・の?」

君は、僕に微笑みかけた

「やっぱり嫌なんだ」

もうずっと前からそう

「じゃあ、どうする?」

僕も君もわかっていたこと

「あんたも、死ぬ?」

僕は見た
今まで数え切れないほどの人間を葬ってきた、君の笑顔を
今まで僕には一度だって向けられたことのなかったそれは、とても・・

「Bye」

悲しげで、今にも泣き出しそうな笑み
キミヲノコシテユクボクヲユルシテクダサイ

「また後でね」

地獄絵図の果て
一人の造られた少女が呟いた
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導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

「――来い」

差し出された手
ざわめきが広がる

「お前は」

君は言った。僕等は醜悪だと
けれど誘うのか


キミヲオトシイレタコノボクヲ


導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

「僕、は――」

風が舞い上がる。この閉ざされた空間で
僕の体を絡めとって離さない
これが誰の意思なのか、僕は知っている

「来るだろう?」
「・・・もちろん」

このまま時が止まればいい
そうすれば、きっと君はいつまでも僕の物なのに

導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

僕は今、君の為に生まれ変わろう
「醜悪だな」

そう吐き捨て君は僕等に背を向けた
けれど人々は懇願する

「俺はお前たちなど従える気はない」

導いて

「滅べばいい、お前たちは」

我等の王

「これまでお前たちが見捨ててきた者達のように」

たった一人残された王の血族

「地を這って、そして誰の記憶からも消え失せてしまえ」

導いて、我等の王
たった一人残された王の血族


風が吹いた


閉ざされた空間で不自然に発生した風はひしめく人々を見下した様な目で見遣る男の体を包み、そして攫う
それが血族に許されたチカラ

不意に君は振り向いた

「――来い」

差し出された手
ざわめきが広がる

「   」



コノママ、トキガ――
いつまでもいつまでも暖まらないベッド
さも可笑しそうに声を上げて笑い、少女はベッドを飛び出した

「気分は?」
「最高」

耳鳴りがしない

「面白い奴だな」
「なにが?」

鏡の前に立つ男は肩をすくめる

「望んで人間辞める奴なんてそういない」
「それで?」

世界が暖かい
全てが自分に優しく感じる

「・・・いや」

止まった耳鳴り、それは鼓動

「楽しそうだな」
「もちろん!」

死した体で少女は笑う
冷めたベッド
温もらない体
病んだ心が時を断ち切る
ひやり
頬を撫でる手を振り払った

「触んなよ」

俺はあんたの玩具じゃない

「じゃあ、今すぐ殺してあげましょうか?」

人でない体温が不快
触るな
俺の心まで凍る

「お断りだ」
「まだ気付かないの?」

悪夢だ

「お前は私の息子なのに」
「違う」

世界は人に選択肢を与えない
こんなバケモノばかりが蜜を吸う

「いい加減認めなさい」
「煩い」

人は死ぬ
バケモノは死なない

「お前もバケモノなのよ」

冷たい指先が語る
温かいのは、まだ人でいたいお前の心なのだと
 綺麗な綺麗な世界がありました
 そこは苦しみも悲しみもない、とても幸せな世界でした

 〝ユートピア〟

 世界を創った神様は、世界のことをそう呼びました
 皆も世界のことをユートピアと呼びます

 この世界を創ったとき、神様は言いました

「君達を害するものは何もない」

 人々は喜びました
 もう争いもなくなるのです
 でも、神様は言いました

「けれど幸せばかりでは世界は成り立たない」

「だから君達の代わりに、苦しみしかない世界で生きている人たちがいる」

「君達の幸せは、たくさんの犠牲の上に成り立っているんだ」

「それをどうか、忘れないでほしい」

 でも、平穏を手に入れた人々はその話を聞いてはいませんでした
 神様は、悲しそうにうつむきました
 そして、喜びばかりの人々の前から姿を消してしまったのです
 でも幸せな人々は、神様がいなくなったことにさえ気付きませんでした
 それきり神様は、幸せな世界には二度と現れませんでした





「彼らに本当の幸せはわからない。だって、幸せと悲しみは背中合わせなのだから」

 最後に神様は、小さく呟きました
 けれど人々は誰も、そのことに気付けませんでした
 それが幸せなのか不幸なのかは、世界を創った神様にさえ、わかりませんでした
「お前の家、何でこんなに広いんだよ」
「多分説明してもわからない」
「なんだよそれ」
「簡単に言うと、空間を抉じ開けて捻じ曲げたって感じ。だから敷地はどこまでも続いてるし、捻じれを利用すれば一瞬で行きたい所にもいける」
「・・・じゃあ何で俺ら歩いてんだよ」
「急ぐ理由がないから」
「あっそ」

 昔々、ある所にとても広いお屋敷がありました。

「で、さぁ、どこ行くの?」
「もうつく」

 そこには昔々、混沌の中から生まれ、たくさんの世界を創った神様とその家族が住んでいました。

「うわ、何ここ」
「境界」

 神様は家族の事をとても大切にし、皆にとても慕われていました。

「って・・・なんで森の中にドアがあるんだよ、ドアが」
「あるところにはあるのよ」
「嘘だぁ」

 けれどある日、神様は家族と広い屋敷を残して、忽然と姿を消してしまったのです。

「この向こうは現実。歪められたこの空間の中で、この先だけが現実の世界」
「・・・ちゃんと土地があるってこと?」
「そう。たとえ〝あの人〟の力が消えてこの屋敷がなくなっても、この扉の向こう側だけは残る。そこだけは、扉の向こうにあり続ける」
「なんで」
「それは・・・」

―――ガチャ

「ここがこの世界の中心であり、あの人が唯一愛した人の場所だから」
「・・・場所?」
「見て」

 なぜなら、神様は大切な人を亡くしてしまったから。

「・・・人?」
「あの人が愛した人の骸よ。あの人と彼自身の力で、今でも生前の姿を保っている」

 なぜなら、神様の大切な人は神様に哀しんで欲しくなかったから。

「・・・この花は?」
「アイリスよ、この世界を創った時、あの人と彼が植えたの」
「こんなに?」

 だから大切な人は眠ります。
 広い世界の中心で__

「それは、植えた本人達にしかわからないわ」
「ふぅん、で、なんで俺つれてきたの? 俺を」
「だって言ったじゃない『世界の中心には何があるのか』って」
「それだけ?」
「それだけよ」

 たくさんの想いに囲まれて、大切な人は眠ります。




アイリス――花言葉
<あなたを大切にします>
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