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「あの方の目は、磨き上げられた宝石。一切の感情を映さず冷やかで、だからこそ至上」

 ノスリヴァルディと名乗った巨人族の女は、どこか危うげな雰囲気をその身に纏っていた。

「けれどこの頃、稀に血が通う」

 その理由を、私は知らない。

「だから、なに?」

 知りたくもなかった。

「まだ分からないの?」

 流れる風が狂気を孕んで頬を撫でる。

「――貴女がっ」

 感情のままに解き放たれた魔力は鋭く熱を生んだ。お気に入りのワンピースに赤い花が咲く。
 くすりと笑みを浮かべながら、私は言葉より早く魔力を放った。

「リーヴが初めてくれた服だったのに。――どうしてくれるの?」

 たった一筋、頬につけられた傷の代償は千の痛み。赤い花どころか全身を真赤に染め蹲るノスリヴァルディは、悲鳴すら上げられない。――あらかじめ声帯を切っておいたからだ。

「死んで」

 とどめの一撃を放とうと、腕を振り上げた私の視界からノスリヴァルディが消える。《空間転移》したのだと気付いて後を追おうとしたら、魔力を練り上げるより早く腕を掴まれた。

「深追いはよせ」

 いつの間に現れたのか、全ての元凶が静かに告げる。

「…止めるなんて初めてね」

 いつだって私のする事に口出しなんてしないのに、今日は一体どうしたんだろう。
 興味半分不審半分、薄く笑って魔力を収めた。

「深追いすると怪我をするぞ」
「もうしてる」

 そう言って頬を撫でると、そこにあるはずの傷がない。ただぬるりとした血の感触だけが残っている。

「いつの間に…」
「これで追う理由はないな」
「そんなに殺されたくないの?」
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 この目に映る世界が色を失くして、困る事は一つ。

「どうかしたのか」

 たった一つだけ、困る事がある。

「なんでもない」
「…そうか」

 だから何も見なくていいように目を閉じた。たった一つと世界を引き換えて、私は安堵の息を吐く。

「リーヴスラシル」
「なぁに?」

 これでもう、大丈夫。

「貴方の目は、まるで磨き上げられた宝石ね」

 暗に感情がないようだと言われても、別にどうということはい。それが真実なのだから。

「でもこの頃、たまに血が通うわ」

「一緒に行こう」

 ミズガルズとヨトゥンヘイムとを隔てるイヴィングの川を渡って、人間が私の《世界》へ入り込む。

「君はここにいるべきじゃない」

 覚えたのは、想像を絶する嫌悪感。

「ぃ、や…」

 そして、恐怖。

「…なにあれ」
「無病息災を願うこの村の名物祭。参加者は大抵怪我をする。死者もたまに出る」
「あんたそんなことまで知ってるの?」
「知っている」
「記憶喪失のくせに」
「厳密にいえば自分が誰であるかは知っている。記憶がないだけで」
「それを記憶喪失っていうのよ」
「知っている」
「とりえず…城?」
「安易すぎないかそれ」
「そう?」

 まず最初に創られたのは、王様のお城。

「次はー…何がいい?」
「もう詰まったのか」
「だってもうよくない? 城あるし」
「…領地と国民は?」
「わらわらいると面倒臭い」
「領地」
「まぁそれくらいなら…」

 次に領地。

「あ、あと空」
「…とりあえず世界として最低限のものは創っておいた方がよかったんじゃないか?」
「そうかな」

 最後にぐるりと空を創って、おしまい。

「まぁでもこのくらいでいいっしょ」

 王国遊戯のはじまりはじまり。

「私は世界を切り取ることが出来るの」

 そう言ってその子は笑った。少しだけ日に焼けた顔で誇らしげに、両手の人差し指と親指で枠を形作りながら。
 白いTシャツに、青いデニムのショートパンツ。――今時、真夏を舞台にした小説でも見かけないような格好に、たった一つ首から下げた青いカメラだけが浮いている。

「そのカメラで?」
「えぇ、そうよ」
「それなら俺にだって出来るよ」

 パステルブルーの、丁寧に使い込まれたデジカメでなくてもいい。まともなカメラさえあれば、誰だって世界を切り取ることが出来るはずだ。
 けれど彼女は小馬鹿にするような顔でカメラを構える。「無理よ」と、断言する声には根拠の知れない自信が満ち満ちていた。

「なんで」
「なんでも」
「なんだそれ」

 カ、チ。

「私だけが出来るのよ」
「…切り取られた」
「今のは違うから大丈夫」
「違うって?」
「ただ写真を撮っただけ」
「どう違うんだか」
「知りたい?」
「知りたいような、知りたくないような…」
「どっちよ」

 カ、チ。カ、チ。カ、チ。

「いつまで撮ってんの」
「んー…気分?」
「楽しい?」
「結構」

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