「あんたまだそんなカッコしてんの?」
ばさりと翻った翼。お気に入りの木の上、いつもと変わらず膝に置いた本を捲っていたナギの手元に影が差す。
「…誰?」
「私のことわかんないの? ジエンー? あんた寝てんのー?」
「あの人、今まで一度だって姿を現したことなんてないわ」
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幼い少年を視界にいれ、ナギは一度に乗せた本の感触を確かめた。
「いいことを、」
教えてあげましょうか。――途切れた言葉の先を知ってか知らずか、少年は訝しげな目をナギへと向ける。
ナギは目を閉じて、完全に木の幹へと体を預けた。
「なんのことだと思う?」
「……」
機嫌のよさは頬を撫でる風が原因。だからこの風がやまないうちに、告げておかなければ。
「今日、朝起きたら、机の上に書いた憶えのないメモがあったの。でも、そんなこと珍しくもないわ? そこに書いてあったことは酷く重大で、面白いことだったけど」
「重大?」
「そう。とても、ね」
もう何度読み返したかわからない。所々擦り切れた本を慈しむような手で捲り、ある一点でナギは手を止めた。
彼女を見上げる位置に立つ少年に、示されたページは見えない。
「なんて書いてあったと思う?」
ページとページにはさまれた紙片の感触をひとしきり楽しんで、ナギはパタリと本を閉じた。
そうして彼女の本はまた厚みを増す。紙片に記されたメッセージを集め、少女はいつしか答にたどり着いていた。
「〝懐かしい気配がする〟――きっと、すぐに母上もお気付きになるでしょうね」
「――クロウカードが?」
「懐かしいのは多分守護者の方よ」
「何故俺に…」
「決まってるじゃない」
でも気づかない振りをする。
「貴方が一番、私の傍にいるからよ。――小狼」
その方が、楽。
長い銀色の髪が翻る。白い羽。まるで天使のようにそれは舞い降りた。
「――――」
祝福を与えて。罪深き私に。そうすればきっと、もう少しだけ生きていることが出来るから。そうすればきっと、希望の存在をかろうじて信じていることが出来るから。
「――――」
そうすれば、きっと立ち向かうことも出来るから。
「――――」
祝福をちょうだい。
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