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「愛してる愛してる愛してる愛してる」
「ルヴィア・・?」
「柘榴」

 薔薇の民薔薇の民異なった生き物
 私は誰? ここはどこ? 何故私達はここにいる?

「愛してる愛してる愛してる。誰に告白してるんだい?」
「ヴィヴィアンによ」
「残念」

 Silver Roseを失って

「どうして?」
「わかってるだろ?」

 羽ばたく羽を手放して

「分からないよ」

 自ら地に足を付けた

「・・・」
「呼んでる」

 愛しい人
 愛しい愛しい薔薇の姫

「行くの?」
「だって呼んでるもの」

 私達のお姫様

「そう」

 大切な人

「柘榴も来る?」

 今は誰よりも何よりも

「行かないよ」

 例えば――

「そう」

 俺達よりも?

「また後で」
「また後で」

 残酷な残酷な俺達の主。薔薇の民を統べる人
 俺達はただその意思に従う、従うと誓う

「――人は短命だ」

 いつまでもどこまでも

「そういうことルヴィアの前で言うなよ?」
「お前とは違う」

 共に堕ちる事ができるのは俺達だけ

「そうだな」

 今までだってそうだったんだから
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「ここは・・」

 ふわりと危なげなく地に降り立ちイヴは空を仰いだ。
 ビルの間から覗く光りは夕暮れの紅[アカ]に染まり、その色はつい今朝方までいた世界と酷似している。

「・・・ソラタ!」

 背後で到着したばかりの世界に視線を巡らせる二人には見向きもせず、肩に飛び乗ってきたモコナを払い落とすこともせずイヴは目の前の建物へ向け叫んだ。

「ソラタ! いるんだろ、さっさと出て来い」
「――イヴさん!?」

 ドタドタと階段を駆け下りる音。次いで耳朶を打った乱暴に扉を開く音ににっこりと見惚れる様な笑みを浮かべる。

「なんでまた・・」
「ユウコの所から来た。中に入れてくれないかな、僕と――」

 そこまできて初めて相当な時間共にいることになるであろう?仲間?を振り返り、イヴはソラタと奥から顔を覗かせるアラシに背を向けた。

「彼等を」
 高らかに響くバイオリンの音色。
 聞きなれた狂詩曲は何の躊躇いもなく胸の中に落ちてくる。

「どうして・・」

 夢の中には誰もいない。
 名前を呼んでも答えない。
 世界はどこまでも続く漆黒。
 私は独り。

「どうしてっ」

 エトランゼ。異邦人。それはだれ?

「私は――」

 響く音色が心を震わす。
「どういうこと?」

 それだけで人を射殺せそうなほど鋭い視線を目の前の男へと向け、ルヴィアは両手に持っていた短剣を鞘に戻した。

「私を管理するつもり?」
「お前ではなくお前たちを、だ」

 向けれられた銃を一瞥する。

「そんなもので?」
「ああ」
「・・・」

 銃口を突きつけられたのは一人の女。
 ルヴィアは今度こそはっきりと嘲笑した。

「柘榴、紫苑」

 そしてゆっくりと短剣を抜く。

「手は出さないで」

 皆殺しだ。と、呟く声が風に乗って届いた。
「紫苑! ルヴィアはどこ行ったの!?」
「落ち着け」
「このホテルで合流するって言った!」
「落ち着け、琥珀。お前なら分かるだろ」
「っ・・」
「ルヴィアはお前を見捨てたりしない。そうするつもりなら俺はここにいない」
「でもっ・・」
「ルヴィアがお前の前から完全に姿を消すのはお前を殺すときだ。彼女の約束を信じろ」
「帰って・・来るの?」
「多分な。俺が合流するときはお前を連れて行く。それでいいだろ」
「・・・・・わかった」
「オ・ルヴォワール、SAYA」

 開け放った窓から片足を投げ出しルヴィアは小さく呟いた。
 誰が悪いのかなんて知らない。あえて言うのなら正しい人間なんていない。

「私達も行きましょうか、柘榴」

 声をかけたまま返事も待たず屋外へと姿を消したルヴィアの後を追い、柘榴は放置された刀を視界に捕らえる。

「脆いわね」

 まるで彼女の心のように。

 ――紫苑は?
 ――琥珀を一人にしたくないの
 ――あっそ

 降りしきる雪が足跡を消す。
 ともすれば呑み込まれそうになる白さに柘榴は背後からルヴィアを抱きしめた。

 ――どこに行くの?
 ――さぁ?

 オ・ルヴォワール。愚かで浅はかな【赤い盾】。
 小さな笑い声は全て雪が呑み込んだ。
「彼女、ルヴィアにだけは敬語を使うのね」

 どうしてかしら。呟くジュリアを一瞥しデヴィットは窓の外に視線を戻す。

「琥珀か」

 車もまばらな道路を飾り気のないバイクが走り去って行った。

「そう。赤い盾最年少実動員、琥珀。・・沖縄に来てからずっと一緒だったけど、あんな彼女始めて見るわ」
「それだけ特別だという事だろう」

 任務に支障がなければ問題ない。

「けど、Bloody Eyeは危険よ」
「琥珀がいる」
「彼女が裏切らないとでも?」



「お前達が心配する様なことじゃないだろ」



 いつの間にか部屋の扉は半開きになっていた。
 扉の枠に寄りかかるようにして立っていた柘榴は剣呑な光を帯びた目を細め、二人を睥睨する。

「ルヴィアの約束が信じられないのなら今すぐ琥珀を殺せばいい。何故琥珀が必要なのかは聞いてるんだろ? 赤い盾のエージェント」
「だからこうして作戦にも参加させている」
「精々ルヴィアの逆鱗に触れない事だな、ルヴィアがその気になれば、あの――」
「柘榴」

 二人目の来訪者。
 紫苑は柘榴の言葉を遮るようにその名を呼び姿を現した。

「ルヴィアに言われただろう」
「?赤い盾に構うな?? 俺はルヴィアの言葉よりも安全を優先する。解ってるだろ?」

 凍てついた視線を向けられて尚表情一つ変えず、紫苑は一拍置いて柘榴に背を向ける。
 そのまま音もなく歩き出し、室内の二人には聞こえない程度の声で呟いた。

「奴等がルヴィアに何か出来るとでも思っているのか」

 紡がれた言葉に柘榴は酷くおかしそうに肩を揺らす。
 傷一つでも嫌なのさ。

「過ちを繰り返すなよ? 赤い盾」

 彼女の鮮血が流れたときは、楽に死なせてなどやりはしない。
 室内に視線を戻す事無く扉を閉じ、柘榴は忌々しげに吐き捨てた。

「そうさ、楽に死なせる訳がない」

 例え誰であろうと八つ裂きにしてやる。
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