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「あぁ、失敗だったか」



 言葉とは裏腹に卑弥呼は柔らかく微笑した。
 閉じた扇で用意させた水鏡の淵をコツコツと叩けば、映し出される場面が目まぐるしく変化する。



「やはり華月に任せるべきではなかったな」
『来い』



 今映し出されているのは差し出された手と、伸ばされた手。



『かあ・・さん?』



 コツ



『あの子は私のものよ!!』



 コツ



『諦めなよ、狭霧』



 コツ



「姉上」



 コツ...



「どうした、月詠[ツキヨミ]」
「須佐[スサ]が逃げました」
「・・・はぁ、」



 白銀の髪を揺らし現れた闇王の言葉に卑弥呼は微かに目を瞠り、額に手を当てると深く溜息を吐いた。



「誰だ? 須佐に下界のことを教えたのは」
「僕です」



 そして絶句。



「お前が?」



 意図せずしてその手から鮮やかな緋色の扇が零れ落ちる。
 落ちましたよ? そう無邪気そうな顔で告げ、闇王は続けた。



「だって、面白くないじゃないですか」



 全てが手の上では面白くない、と。



「最近退屈してたんですよ、このくらいの不確定要素があったほうが面白いんじゃないですか? 色々と」



 須くして運命は神の手を離れた。



「さぁ、これからが本当の始まりです」



 運命の時は近い。
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